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いまへ

それから麻井はシーダ達を匿い、業務を行う傍らリヒトーの状態を注視していた。

シーダが連れて来てから数日後、リヒトーの傷は完治しており呼吸脈拍共に安定していた。

そして、血液検査の結果リヒトーは吸血花へと変貌しているのが確定した。それも過去に確認された吸血花の中でも強い反応を示しており、吸血花の女王と類似している点がいくつか見つかった。


今は眠っていて詳しくは分からないが、もし目覚めた時人間を襲うようになったらどうなるか。そう考えただけで麻井は身震いする。それだけ吸血花の存在は恐ろしいものだ。

だから人間は非人道的な手術をやってまで剪定士という存在を生み出しその存在を許容した。しかし、今はその剪定士が一人もいない。もし吸血花したリヒトーが暴れたら人間側に対抗する手段がほとんど無い事になる。


「いいシーダ。リヒトーの事、ちゃんと見ててよ。もしリヒトーが暴れたらあんたが責任をとって止めなさいよ。」

「分かった。」

「絶対だからね。」


今後の事を考えて麻井はシーダに強く念押しした。

麻井の方もリヒトーがいつ目覚めても対応できるよう慎重に様子を見ていた。


そんな時に邪魔が入った。

行方不明だった陽斗達が再びやらかした。 


陽斗は独自の情報網でリヒトーが吸血花になって生き延びている事と麻井がリヒトーを匿っている事を知り、麻井とシーダの隙をついてまだ目覚めていないリヒトーを連れ去って行った。


これがリヒトーが目覚めるまでの間に起きた出来事だ。


その後の事はリヒトー自身がよく知っている。



◆◇◆◇◆



「以上があたしの知っている事。」


そう言って麻井は話を終わらせる。


「そうか。」


話を聞き終えたリヒトーは落ち着いた様子でそう言ってソファから立ち上がる。


「大体分かった。」


そしてそのまま隠し扉の方へ向かう。


「ちょっと待ってリヒトー。あんたこれからどうする気?」


研究室から出ようとするリヒトーを麻井は思わず椅子から立ち上がって呼び止める。


「麻井。シーダがここに来たらこう伝えてくれ。」


そこまで言ってリヒトーは振り返る。


「いつもの場所で待っているって。それとこれから何をするのかというと」


リヒトーは隠し扉に手をかける。


「夫婦喧嘩、かな。またな麻井。」


そう言って隠し扉を開き、外に出ていった。



◆◇◆◇◆



いつもの場所。

そこは過去に何度もシーダと会った場所であり、リヒトーが自殺した場所でもある。

現在、リヒトーはその場所で囲まれていた。その相手に対してリヒトーは眉間に皺を寄せて睨みつける。


「お前達に用は無い。失せろ。」

「そういうわけにはいかないよ。季花。」


そう言って微笑んでいるのは陽斗だ。そしてその周りには陽斗の部下達がいる。


「なんでここにいるんだ。」

「発信機を壊したのか? 探したんだぞ。部下に頼んでここの周辺を見張ってもらって良かったよ。」

「ストーカーが。」


リヒトーは嫌悪感を丸出しにして陽斗達を睨みつける。

それでもなお陽斗は微笑んでいた。


「そんな事言わないでよ季花。僕は君の事が心配だったんだよ。」

「しなくていい。さっさと消えろ。」

「意地なんて張らなくていいよ。化け物になっても僕は君の味方だ。」


何を言ってもこちらの話を一向に聞き入れない陽斗の態度にリヒトーは怒りを通り越して呆れていた。


「ところであの化け物はどこにいるの? あいつを使えば人類を不老不死にする事が出来るかもしれないんだ。」

「お前は本当に自分の事しか考えていないんだな。」

「そんな事ないよ。僕は色んな人達のために働いているんだ。なのに皆僕達の事を悪人扱いしてくる。この誤解を解くためにはリヒトーの協力が必要なんだ。分かったらあの化け物をここに連れて来てよ。」


陽斗の物言いにとうとうリヒトーは睨む事すら止め哀れな存在を見る目つきへと変える。


「最後の忠告だ。十秒以内に自分の前から失せろ。十。」

「まったく。」

「九。」

「素直じゃないんだから。」


陽斗はまだ気がついていない。リヒトーは本気だ。


「あの、ぼっちゃん。」

「八。」


部下達は気がついている。リヒトーは本気だ。


「早く逃げた方が」

「七。」

「冗談だよ。」

「六。」

「季花は恥ずかしがり屋だからつい」

「五。」

「反対の事を言うんだ。」


逃げようとする部下達に構わず陽斗は麻酔薬が入った銃を手にしてリヒトーに向ける。


「四。」

「でもいい加減素直にさせなくちゃ」

「三。」

「いけないからね。痛いだろうけど必要な事だ。」

「二。」

「季花のためにも心を鬼にしなくちゃ。」

「一。あ。そうだ。」


カウントが零になる前にリヒトーは報告する。


「自分は結婚している。」

「え?」


この発言は陽斗を油断させるものだった。


「零。」


リヒトーは驚異的な身体能力で陽斗との距離を一気につめて躊躇なく拳を振るった。



◆◇◆◇◆



急いでリヒトーを追いかけたが途中で見失ってしまい、慌てて麻井の所に向かったシーダ。

麻井からリヒトーの場所を聞いたシーダは急いで待ち合わせの場所へ向かう。廃墟街に着いたシーダは真っ先に馴染みある廃墟ビルの中へと入る。


「リヒトー!」


ここにいるであろうリヒトーの名前を呼びながら本屋がある方へ向かう。かつてまだ本屋としての形が残っていたが、過去に陽斗達がやって来て荒らしたせいでその形は瓦解してしまった。


「来たか。」


それでも待ち合わせ場所としてまだ使えていた。

普段通りにリヒトーはそこで待っていた。


「遅かったな。まぁちょうど良かったか。」

「リヒトー。もしかして、他にも誰かいた? 襲われただろ。」


シーダは本屋だった場所がさらに荒れている事に気がつく。真新しい銃弾の跡が壁や床に残っていた。


「そうだ。陽斗の奴、懲りずに部下を引き連れて自分を捕まえようとした。相変わらず話を聞かない奴だったよ。」

「そいつ今どこに?!」

「気絶させて外に放り出しておいた。後で麻井に回収させよう。」

「そうか。良かった。」


ほっと一安心したと思ったらシーダは表情を曇らせる。


「…リヒトー。ごめん。」

「その謝罪はどういう意味だ?」

「色々。守れなくて、話せなくて、勝手にやったり。」

「反省はしているようだな。」

「でも、リヒトーは許してくれない。」


悲しそうに、苦しそうに表情を歪めるシーダ。しかし下は向かなかった。


「それでも。俺は駄目なところはいっぱいあるけど、責任はとらないと。リヒトーに許してもらえなくても俺は責任をとる!」

「やり方を知っているのか?」

「分からない。だけどやる。やらないといけないんだ。」


シーダの決意を聞いたリヒトーは表情を少し和らげる。


「そうか。だったらけじめをつけるぞ。」

「けじめ?」

「お前は覚悟を決めた。それはいい。だが、自分は完全に納得はしていない。勝手に吸血花にされたんだ。当然だろ。」


リヒトーの言葉にシーダは申し訳なさそうに唇を噛む。


「だから今から喧嘩をするぞ。」

「へ?」


が、リヒトーの突拍子のない提案にシーダは思わず呆けた様子で口を開けた。

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