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かこばなし

話はリヒトーが自分の頭を撃ち抜く前の時まで遡る。


「くそ! あんのボンボン。リヒトーを襲いやがって!」


荒らされた研究室の真ん中で麻井は怒りを隠さない。研究室の中には麻井の他に誰もいない為落ち着かせようとする者はいない。

そんな麻井の元に無線機から連絡が入る。


「もしもし。…そう。両親は捕まえたのね。陽斗は? まだ。なるべく急いで。」


通信を切った麻井は怒りと苛立ちを少しでも落ち着かせる為に大きなため息を吐く。


「あいつら、どこまでやらかせば気が済むのよ。」


剪定士が生まれたきっかけを作ったのは陽斗を含めた芥薬の一族の者達だ。彼らが剪定士になるための手術方法を作り上げ、その技術を公開した。

にも関わらず彼らは剪定士達を自分達が作った毒で殺した。

動機は判明している。

吸血花がいなくなった今、剪定士はもはや不要。それどころかその力を悪用するに決まっている。そうなる前に処分した。

それが彼ら芥薬の者達の言い分であり独断でリヒトーを除いた剪定士達を皆殺しにした理由だ。


芥薬の一族の者達はこれまで医療などで様々な功績を上げてきたが、それ以上に様々な不祥事や犯罪をおこなってきた。その上それらの行為を悪行であり人々に多大な迷惑をかける事である自覚がまるで無い。それなのに面倒ごとはごめんだと言わんばかりに権力と金を使って過去の事実を隠蔽してきた。


しかしその方法はいつまでも通用はしない。


麻井が剪定士達の遺体から検出された毒を分析しその毒の入手経路を麻井の協力者達が調べ始めたり

それを勘繰った芥薬の一族の者達が阻止しようと手を出した結果、麻井はそれを逆手に取り逆に芥薬の一族の者達を追い詰めて芥薬の関係者達が事実をもみ消す前に麻井を筆頭に捜査をし、証拠を集めて一族の者達と関係者達を一網打尽にする勢いで次々と摘発に成功していった。 


その最中に芥薬 陽斗がやらかした。

罪状はリヒトーの拉致監禁未遂と窃盗だ。


麻井がいない間に陽斗は数名の部下を引き連れて麻井の研究室に侵入して研究のデータを盗み出し療養中のリヒトーを捕まえようとした。

リヒトーは間一髪で逃げ出せたが、シーダの肉体構造について記録してあるデータは盗まれてしまった。


麻井の研究室が荒らされているのは陽斗達が原因だ。研究室に麻井が秘密裏に設置しておいた監視カメラで一部始終を確認した麻井は大いに焦る。


「もしかしてあいつら、シーダも捕まえて何かに利用する気? もしそうだとしたら絶対に碌でもない事になる。」


頭を抱える麻井。

どうしたものかと考えている時、隠し扉が開く音が耳に入った。


「リヒトー?」


隠し扉の存在を知っているのは麻井とリヒトー。そしてシーダだけ。


「リヒトーなの?」


麻井はリヒトーが逃げ延びたと思い、呼びかけながら音がした方へと向かう。

この時の麻井はリヒトーが戻って来たと思って少しほっとしていた。


麻井とシーダがいない隙を狙って休養中のリヒトーがいる研究室に陽斗達が襲撃して来た。

リヒトーは捕まる寸前に力を振り絞って研究室から脱出し、そのまま逃亡していった。

襲撃の知らせを聞いて麻井が駆けつけた時にはリヒトーや陽斗達はいなくなっていて研究室は荒らされた後だった。


陽斗達から逃げ、無事に戻って来たと思った麻井は出迎えようと早足で向かう。


「戻って来たのか。心配したん」


麻井は入って来た者の姿を見て言葉を詰まらせ、目を疑った。

隠し扉から入って来たのはシーダ。その両手にはリヒトーを抱えている。それだけなら麻井はここまで動揺はしていなかった。しかし、リヒトーの頭が真っ赤に染まっている姿を見てしまった麻井は容易にリヒトーの状態を察してしまった。


「…え? なん、なんで? 何それ。死んでるの?」


リヒトーが死んだ。

目の前にある事実に対して半信半疑の麻井はゆっくりと近づき、リヒトーの頬に触れる。

人肌にしてはとても冷たかった。


「…あ。」


その冷たさを体感して、リヒトーの状態を見て、リヒトーの死を突きつけられて、麻井の内心はぐちゃぐちゃだ。思考がうまく働かない。

それでも麻井はリヒトーの死を受け入れようとした。


「リヒトーは死んでないよ。」


それを邪魔したのはシーダだ。


「どういう事?」


反射的に聞き返すとシーダはその理由をはっきりと答える。


「リヒトーを吸血花にしたから。」

「…は?」


その答えを聞いて麻井の思考は一時停止してしまった。それほどまでに衝撃的な事実だった。


「吸血花? リヒトーが。え?」


シーダの冗談かと思った。冗談だと思いたかった。しかし、シーダの目は本気の目つきだ。

麻井は震える手でリヒトーの手首に触れ脈を測る。ひんやりと冷たい体温と共に微かな脈を感じとる。


リヒトーは生きていた。吸血花として。 


そうと分かった途端、麻井はシーダの頬を力一杯引っ叩く。


「お前。お前! なんて事を!」


じわじわと痛む手に構わず麻井は怒りの感情に身を任せてシーダに詰め寄る。


「リヒトーの意思を無視して! 自分が何をしたのか分かってるの?!」


本人の意思の確認をせずに人外へと作り変えた。

それを数少ない友人に対して行ったシーダに対して麻井は怒りを隠さず臆さない。


「…分からない。」


頬を叩かれ、麻井から怒鳴られているシーダはぽつりぽつりと話す。


「俺は悪い事をしたのか? 死んでほしくなかった。リヒトーが死ぬのが嫌だった。死ぬってこんなに怖いなんて知らなかった。」


悲しそうに表情を歪めるシーダ。その目元には涙の跡が色濃く残っている。

それを見た麻井は怒りを少し抑えようとする。


「…死んだら生き返らない。それを破るのはいつだってタブーだ。」

「タブー?」

「やっちゃいけない事って意味。お前はリヒトーに許されない事をしたの。分かる? 分かれ。」

「そんな。」


許されない。

それを聞いたシーダは絶望した様子でうつむく。


「それでもお前は責任を取らなくちゃいけない。」


その様子を見た麻井はあえて厳しくする事を決めた。


「許されなくても。ぶん殴られても。お前は責任を取らなくちゃいけない。リヒトーの事を支えなくちゃいけない。」

「…できるかな? 俺に。」

「出来る出来ないじゃない。やれ!」


麻井の言葉に対してシーダは小さく頷いた。

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