あおぞらのした
麻井からの祝いを受け取り陽斗らを引き渡し後始末を麻井とその他大勢の者達に丸投げしてきた後、リヒトーとシーダは馴染みの家へと戻って来ていた。
「後悔、していないのか?」
リヒトーが荷造りをしている最中にシーダからそう言われたリヒトーは手を止めてシーダに向き合う。
「人間のまま死んだ方が良かった?」
両手を手を強く握りしめるシーダ。緊張しており後ろめたさを感じている様子だが、リヒトーから顔を背けはしない。
「なんだ。まだ気にしていたのか。」
そんなシーダの言葉と様子を見てリヒトーは呆れた様子だ。
「言っただろ。自分が嫌だったのは無断でやったにも関わらずお前が黙っていた事だ。それに人間であろうと吸血花であろうと自分は気にしない。」
リヒトーはそう言うがシーダの表情はまだ幾分か暗い。
「あれだけの喧嘩をし、これだけ言ってもまだ納得しないというのなら」
リヒトーはシーダとの距離をつめ
「一生かけて償え。」
シーダに逃げられない内にリヒトーはシーダの唇と自分の唇を重ねた。
二度目も触れるだけの短いキス。
それでもシーダにとっては未知で刺激的なものだ。目を大きく開けて驚き、顔を真っ赤に染める。
「リ、リヒトー?! いきなり、え。その。」
「この程度で狼狽えるとは。もっと凄いのものがあるのに。」
「あれよりも?!」
顔を真っ赤にして慌てふためくシーダを見てリヒトーは面白そうに眺める。
「自分の体を好き勝手したんだ。責任はちゃんと取れ。」
楽しげに微笑んでそう言うリヒトーに対してシーダは顔を赤らめながらも真剣な顔つきになる。
「…取る。ちゃんと取るよ。責任。だから、これからも俺と一緒にいてください。」
そこまで言ってシーダは首を横に振る。
「いや、そうじゃない。」
そして一部改める。
「俺と一緒に生きてください。」
シーダからのプロポーズにリヒトーは驚いた顔を見せる。
「…喜んで。」
驚きはしたがシーダからのプロポーズはちゃんと受け取り、リヒトーは微笑んで返事を返す。
するとシーダは真剣な表情から一転、嬉しそうに笑う。
「良かった。良かった!」
嬉しそうに笑い少しはしゃぐシーダ。
「それよりも準備はどうした。済ませたのか?」
反対にリヒトーは先ほどの微笑みはどこへやら。すでに口角を元の位置に戻し先ほどよりも冷たさを感じる目線でシーダを見る。
「あっ。まだ。」
「早くしろ。」
「すぐにやる!」
リヒトーに急かされたシーダは急いで自分の部屋へと向かい荷造りを終わらせる。
「忘れ物は無いな。」
「無い。」
「じゃあ行くぞシーダ。」
「うん。行こうリヒトー。」
二人は荷物を持って荊の壁へと向かう。二人の守るように囲っていた荊の壁は二人が近づくと荊が動き二人が進めるほどの通路が出来上がる。二人はそこを通って外に出る。
「車は使わなくていいの?」
「確認したがガソリンがもう無いから使えない。それに歩いた方が色々と見られる。」
「それもそうだな。」
二人は当てがないまま歩き時々会話をしながら進んでいく。
「リヒトーがやりたい事、見つかるといいな。」
「焦らなくてもいいだろ。時間は山ほどあるんだ。楽しみはゆっくりと消費しないと後が困るぞ。」
目的も夢も無いリヒトーが何かを見つけられたらいいなとシーダが提案し、リヒトーがそれに賛同した事で決まった二人旅。
この旅でリヒトーが何かを得られるかどうかはまだ誰にも分からない。
この先二人に何が起こるのかはまだ誰にも分からない。
それでも二人は歩く。自分の意思で二人は共に歩く。
何度失っても。何度衝突しても。何度邪魔をされても。
二人は共に歩き続ける。時々休む時もあるだろうがそれを咎める者は誰もいない。いたとしても二人がそれに従う理由は無い。
これは二人が決めた生き方だ。
旅の行き先は二人にも分からない。
既存の地図は役に立たない。吸血花と剪定士が生まれたきっかけである過去に起きた災厄の余波による災害によってこの世界の常識が壊れた。地形も生態系もめちゃくちゃ。人の数も減り文明は衰退した。
そんな世界で二人はこれから寄り道をしたり休みながら素敵なものに出会えるといいなという曖昧な理由で歩き続ける。
「リヒトー。」
「何だ?」
「ありがとう!」
「突然何だ?」
「言いたかっただけ。」
「本当に何なんだ?」
青空の下でリヒトーとシーダは道の無い未知へと向かって楽しげに歩いて行った。




