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ついおくじゅうろく

「どうしたいきなり。」 


至って真剣な眼差しを向けるシーダの姿に嘘でもからかっているわけでもない事を察したリヒトーは真意を確かめる為にシーダの言い分を聞く事にした。


「だって。リヒトーやりたい事無いんだろ。」

「無いな。」

「だったら俺、一緒に探したい。リヒトーのやりたい事。」

「それで?」

「一緒にいるって事はさ。家族になるって事だろ。だったら俺リヒトーと家族になりたい。」

「…そうか。」


シーダの主張を聞いたリヒトーは呆れた様子だ。


「シーダ。家族とはどういう意味か分かっているのか?」

「本で知ったんだ。一緒の家に住んで、一緒にごはんを食べて、朝とか夜に挨拶したり。それが家族だろ。」

「うん。…うん。」


シーダの考える家族像を聞いたリヒトーはどう答えようか悩んだ。


「家族になったらリヒトーとずっと一緒にいられる。」


が、シーダのその言葉にリヒトーは悩むのを止めた。


「…なら、なるか。家族に。」


リヒトーはそう答えた。シーダの気持ちに応えた。


「本当?!」

「本当だ。」


嬉しそうなシーダに向けてリヒトーは微笑む。


「死ぬまでの間は予定が無い。残りの時間は全部お前にくれてやる。」

「え。死ぬ?」

「そういえば言ったなかったな。近いうちに自分は死ぬ。」

「…え。」


リヒトーから告げられた真実を聞いて嬉しそうな表情から一転して呆然とするシーダ。

そんなシーダに構わずリヒトーは喋る


「剪定士は強力な力を手に入れる代わりに体に負荷が掛かる。そのせいでほとんどの剪定士はニ、三年で死ぬ。自分は剪定士として適性が高くて剪定士の中でも一番長生きできたが、そろそろ限界だ。」


話をしている間もリヒトーは体に残っている傷の痛みを感じ、腕に巻かれた包帯に滲む血を見る。


「自分はもうすぐ死ぬ。それでもいいならお前の家族になってもいい。」


剪定士として全盛期だった頃のリヒトーであれば重傷を負っても強制的に引き上げられた自己治癒力によって短時間で完治していた。

しかしこの時にはもうリヒトーの体は限界寸前だった。


「どうする?」


死が目前まで迫ってきている事を自覚した上でリヒトーはシーダに告げた。


「なる! 俺と家族になってください。」


しかしシーダはリヒトーの予想に反してあっさりと受け入れてしまった。

思わずリヒトーは目を瞬かせる。


「即答か。分かっているのか?」

「分かってるよ。死ぬまではリヒトーと一緒にいられるんだろ。」

「いいや。何も分かっていない。」

「?」


どうやらシーダはリヒトーの言っていた事の意味を半分も理解していないようだ。


「…まぁいい。自分が死んだら何かしら学ぶだろう。」

「学ぶって何を?」

「死についてだ。自分が死んだ時に改めてよく考えろ。そして思い知れ。」


シーダのきょとんした表情を見て今何を言っても伝えられないと判断したリヒトーは後回しにする事を決めた。


「それよりもだ。お前の家族になるのは一向に構わないが、お前とはどんな関係になるんだ?」


話を変える為に言ったリヒトーの言葉にシーダは首を傾げる。


「関係? 家族は家族だろ。」

「家族にも色々あるだろ。自分とお前が家族になるには、結婚か?」

「けっこん? 何それ。」

「血の繋がっていない他人が家族になるための儀式、みたいなものだ。」

「家族になる儀式! いいな。じゃあやろうその、けっこんってやつ。」

「言っておくがそんなに軽いものじゃないぞ。結婚というのは。」


結婚がなんなのかいまいち分かっていないシーダは乗り気でリヒトーと結婚しようとしている。

 

「それでそれで? けっこんてのは何をすればいいんだ?」

「そうだな。昔は結婚式というものをしたり書類を書いたりしたそうだが、今の時代では結構簡素なものになっているらしい。例えば結婚すると周囲に報告すれば結婚したと言っていいそうだ。」

「…俺、報告する相手いない。」

「例えばの話だ。他にもやり方はある。」

「簡単なやつがいい。」

「簡単か。」


シーダの要望を聞いたリヒトーはある方法を思いついた。


「この場ですぐに出来るやつが一つあるぞ。」

「何それ。教えて。」

「キスだ。」


リヒトーから聞かされたその方法にシーダは再びきょとんした表情になる。


「キスって眠っている人にするやつ?」

「キスは童話の姫を起こす手段だけじゃない。相手への愛情表現の一つだ。」

「あいじょうひょうげん。」

「結婚の手順の一つに誓いのキスというものがある。」

「それをすると結婚できるの?」

「お前がいいならそれで結婚は成立する。」

「やった! じゃあそれやろ。今すぐ!」

「お前、キスが何なのか分かっているのか?」

「分かってるって。口と口をくっつけるんだろ。簡単簡単。」


キスについてほとんど知らないシーダの浮かれた様子を見てリヒトーは呆れる。

そんなリヒトーにお構い無しにシーダは顔を近づけてくる。


「早くやろう。」

「分かった分かった。自分からしよう。目を閉じろ。」


リヒトーはシーダの顔に手を添える。シーダが目を閉じたのを確認するとリヒトーは顔を近づけてシーダの唇と自分の唇を重ねた。

触れるだけの短いキス。


「これでお前と自分は結婚した事になる。まぁ、招待客もおらずかなり簡略化された結婚式だがな。」


キスをした後もリヒトーは平常心でシーダに話しかける。

一方でシーダはキスをされた後呆然としていた。目は開いていたが全く動かない。


「どうした?」


シーダの様子がおかしい事に気がついたリヒトーはシーダに声をかけ顔を近づける。

リヒトーの声に反応したシーダはリヒトーの顔を、というよりも唇をまじまじと見た後顔を真っ赤に染めた。


「えっと。その、あの。」


明らかに動揺しているシーダの姿を見てリヒトーはすぐにその原因に気がついた。


「何だ。もしかしてキスをして照れているのか?」


リヒトーがそう言った途端シーダは顔を真っ赤に染めたまま俯く。

それを肯定と受け取ったリヒトーは微笑ましげにシーダを見つめる。


「もう一度してやろうか?」


リヒトーがからかい混じりにそう言った途端シーダは動揺する。


「え?! いやその。あっ嫌とかじゃなくてそのあの。」


あたふたとするシーダは唐突にリヒトーが持ってきた瓶詰めのジュースを手に取る。


「の、喉が渇いたから貰うねこれ!」


動揺からか震える手で何とか栓を抜いたシーダはそのまま勢いよくジュースを飲み込んでいく。


「こぼすなよ。」


シーダの様子を面白そうに眺めながらリヒトーもジュースの入った瓶を取り栓を抜く。そして中身を飲もうとした時、異変に気がついた。


「ごぽ。」


隣にいるシーダの口から何かが溢れる音が聞こえてきた。


血だ。


シーダの口からたくさんの血が溢れる。持っていた瓶を落としたシーダはその場で倒れうずくまる。


「シーダ! おいどうした?!」


急変したシーダの容体を間近で見たリヒトーはシーダを抱き起こす。

つい先ほどまではしゃいでいたシーダの顔色は青白く苦しそうに呻いている。

リヒトーはシーダを抱き上げると自分の荷物を持って走り出した。目指す場所は麻井がいる研究所だ。


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