ついおくじゅういち
「過去の記録では女王は突然現れ、何らかの方法で当時の人達を吸血花にしたらしい。その後は行方知らずになったが、ここ最近姿を現したようだ。」
リヒトーとシーダは向かい合って座っている。
「監視している者からの情報によればすでに大勢が犠牲になっている。その上女王の影響か周辺の吸血花も活発に動いている。一刻も早く止めなければならない。」
リヒトーの暗い表情を見ながらシーダは話を黙って聞いていた。
「お前も吸血花だ。女王に感化されて敵になる可能性が高い。」
リヒトーはシーダに鋭い視線を向ける。
「そういう訳でお前を連れて行く事は出来ない。」
リヒトーは立ち上がりシーダに背を向ける。
「女王は危険な相手だ。お前の言う通り戦ったらただでは済まない。」
「…だったらなんで戦うの?」
背を向けるリヒトーにシーダは苦悶の表情を浮かべながら聞く。
「自分で選んだ道だからだ。」
リヒトーは振り返る事なく答える。
「嫌な奴らに人生を決められたくなくて剪定士になった。なったからには与えられた仕事をする。それしかやる事が無いからな。」
そこまで言ってリヒトーは歩き出した。
シーダは立ち上がり追いかけようとして、足を止めた。少し立ち止まって振り返ったリヒトーの眼差しにひるみ足を止めてしまった。
「これでお別れだ。お前との時間はなかなか楽しめた。じゃあな。」
リヒトーは別れの言葉をシーダに伝えると再び前を向いて歩き出した。
◆◇◆◇◆
リヒトーがシーダと別れてから少し日が経った後。
リヒトーは女王討伐の任務に参加し作戦開始時まで隠れて待機していた。
女王がいる場所は某国の元は都心だった場所。
今にも朽ち果てそうな高層ビル群だが真っ赤で巨大な蔓が外側を巻きつき内部まで入り込み補強されているだけ辛うじて形が保っている。
ここが女王が発見した場所であると同時にここは女王が生まれた場所でもある。
過去の記録では数十年前、繁栄していた都心に女王が現れ都心にいたほとんどの人間を吸血花に変貌させたという。
女王が再び人々を吸血花に変貌させるのを阻止する為に全ての剪定士達を無理矢理集結させ作戦に強制参加させた。
半数以上の剪定士達がこの作戦の強制参加に対して不満と恐怖を抱いていた。
それ以外の剪定士達は女王討伐に張り切っていた。
リヒトーはそのどちらでも無かった。あるのは与えられた仕事をこなすという義務感だけ。
リヒトーは離れた場所から双眼鏡を使って寂れた都心だった場所を歩く女王と呼ばれている吸血花を目にする。
遠くからだと何の変哲も無い女性に見えるが、実際は高身長の巨体だ。
赤いドレスを身につけているように見えるがら過去の戦闘記録からドレスの部分も体の一部だと判明されている。
愛らしい顔つきをしているが狂気に満ちた目と微笑みが不気味さだ。
赤く塗られた唇から出される言葉は記録で残っているが
「先生、どこ? 先生、どこ?」
「私の王子様。私の王子様。早く結婚式をしましょ。」
「お嫁さん。私、素敵なお嫁さんになれたよ先生。」
このような独り言を言うだけで会話は成立しない。
剪定士が生まれる前から多くの人達が退治を試みたが、女王には圧倒的な攻撃力と再生能力があり全て失敗に終わった。
吸血花を生んだ後は長年姿を消していたが、今は姿を現している。
指示が来るのを待ちながらリヒトーは双眼鏡で女王の動向を眺めている。
時刻は夕暮れ。
日の光が少ないせいか女王はゆっくりと歩く。そして少しでも日の光に当たりたいのか明るい場所に向かう。
リヒトーは女王の動きを眺めている時
あいつがシーダの母親。
ふと、リヒトーはそんな事を頭の中で思ってしまった。
吸血花にとって女王は産みの母親のような存在。シーダも例外ではない。
[でもいいな。俺も家族が欲しい。]
シーダの言葉を思い出してしまったリヒトーは深く息を吸い、吐き出し
「だからなんだ。」
決意を固めようと一人呟く。
リヒトーはこれから他の剪定士達と共に女王を殺しに向かう。
リヒトーは女王を殺しに行く事に迷いは無い。躊躇は無い。命が惜しく無い。
[あるよ! そいつと戦ったらリヒトーが怪我しちゃうだろ!]
はずなのに。
またシーダの言葉を思い出してしまう。
[女王が俺より強かったらリヒトー大きな怪我をするだろ。リヒトーだって痛いのは嫌だろ。止めようよ。]
懇願するシーダの声、眼差しも鮮明に思い出してしまったリヒトーは心が揺らぎそうになる。
「それでも。」
リヒトーは迷わない為に声を出した。
作戦開始の時間が迫って来ている為リヒトーは対吸血花の武器である鉈の柄を強く握る。
「それでも。」
リヒトーは躊躇しない為に声を出した。
倦怠感を感じながらもリヒトーは戦意を無くさない。
「それでも。」
リヒトーは命を無くす事に躊躇わないよう声を出した。
作戦開始の合図が聞こえるとすぐに行動を開始する。
「それでも。」
リヒトーは女王を殺す為に声を出す。
死ぬまで女王を殺す為に足掻く事を改めて決意した。




