きがついて
いつもより早く目が覚めた。
まだ日が上り切っていないため薄暗い。
リヒトーはシーダを起こさないよう静かにベッドから抜け出し外に出た。
外に出たリヒトーは数回深呼吸をした後、しゃがむ。
「どういう事だ。」
シーダに気づかれないよう小さな声で心情を呟くリヒトー。信じられないものを見たと言わんばかりに動揺している。
落ち着くために再度深呼吸をする。そのおかげで少し落ち着きを取り戻し立ち上がる。
すると今度は自分の腕を見る。傷の無い綺麗で血色の良い肌を見てリヒトーは呟く。
「どうなっている。」
剪定士は肉体改造手術を受けた事で吸血花に対抗できる身体能力を得られるが、その代償は大きい。
手術の成功率だけではない。その後もだ。
剪定士は短命だ。
受けた改造手術で肉体に大きな負担がかかり寿命を削っていく。さらに吸血花と戦えば戦うほど体にさらなる負担がかかってしまう。
処置を施せば負担は減らせるが、それが出来る医療関係者が少ない為全員は受けられない。
それゆえに剪定士の存在自体が非人道的だと常に非難されているが、吸血花の驚異がある限り改造手術は禁止される事はない。
それに剪定士になれば危険に見合う報酬が出る。生活が苦しい者が生きる為や家族を養う為に改造手術を受ける者が後を絶たない。
剪定士の最後は吸血花に殺されるか衰弱して死ぬかの二択がほとんどだ。
過去の自分が弱っているのを見たリヒトーは自分もそのうちの一人だと思っていた。
しかし今のリヒトーは健康そのもの。体のどこも痛くはない。運動をしても息切れしない。
これはおかしい。
リヒトーはそう思った。
過去の記憶を見た影響かリヒトーは衰弱した剪定士が元気になった例が一つも無い事を思い出していた。
だから剪定士である自分が過去の自分よりも健康なのはおかしい。いや、生きている事すらおかしい。
リヒトーはそう考えていた。
◆◇◆◇◆
シーダが用意した木の皿の上に盛り付けられているのは桃色と黄色の果実。
リヒトーは黄色の果実を手に取りそのまま齧り付く。程よい酸味と甘みを味わいながらリヒトーは自分の事について考える。
夢で過去を見ているおかげで知識の方はだいぶ思い出してきたが、記憶の方は微妙な方だ。
過去の記憶は見ているが、それが自分に記憶として認識できていない。映像を見ているような気分だ。見ただけで思い出したわけではない。
どうにかして記憶を取り戻し真実を知りたい。
リヒトーはそう考えていた。
「…あのさ、リヒトー。」
「ん?」
考え事をしながら果実を一個完食した時にリヒトーはシーダに声をかけられた。
「どうした?」
「その、あのさ。」
もじもじとした様子で何かを話そうとしているシーダ。
「えっと。お昼ご飯は何色がいい?」
「赤。」
「分かった。ちょうど実っている頃だろうから摘んでおくね。」
そう言って自分の木の皿を持ってどこかへと行こうとする。
その後ろ姿をリヒトーは呆れた様子で見ていた。
先ほどの様子を見て明らかに何かを言おうとして、怖気付いてか別の話をした事をリヒトーは見抜いていた。
優柔不断だと思いながら残っている桃色の果実を手に取った時、リヒトーは唖然とし、こう思った。
なぜ自分はシーダに強く聞き出さないのか。
リヒトーは気がついてしてしまった。
シーダに話を聞く時、あまり深掘りしない。
シーダが話したくなさそうだと感じたらすぐに退いた。
シーダが露骨に話題を変えた時は咎める事なく話を聞いた。
リヒトーはこれまでの自分の行動の違和感に気がついてしまった。
過去の自分であれば気になった事は質問をするなりして聞き出していたと知っている。
しかし今のリヒトーはそうではない。
シーダから詳しく話を聞こう。
そう思った事は何度もあったが、行動に移した事はほとんど無い。
自分自身の違和感にリヒトーは恐怖を感じた。
しかしそれを表に出す事なくいつも通りに振る舞う。
「リヒトー。おかわりいる?」
「貰おう。」
完全に記憶を取り戻すまでシーダに感づかれないようリヒトーはいつものように過ごす。




