ついおくなな
「お前はどうなんだ?」
絵本を読み終えた後、リヒトーは唐突に吸血花に聞く。
「何が?」
質問の意味が分からず吸血花は首を傾げる。
「自分は他の吸血花を数えきれないほど殺した。それについて何か言う事はないのか?」
「…えっと。」
吸血花は何かを言おうとはしたが、何も思いつかなかったのか黙り込んでしまった。
「お前、自分の事をとやかく言えないな。」
「だって。その。」
言いにくいのか吸血花はどもる。
「言いたい事があるなら言え。聞いてやる。」
焦ったくなったリヒトーがそう言うと吸血花はぽつりぽつりと話し始めた。
「友達、じゃないから。」
「友達?」
「うん。リヒトーに会うまでずっと一人だった。」
「他の吸血花は?」
「…嫌われてる。近づくと逃げたり攻撃してくる。」
「なるほど。」
吸血花の話を聞いてリヒトーは納得した。
なぜ敵である剪定士の自分に近づいてくるのか。ましてや二度も殺しにかかってきた相手に対して。
吸血花は寂しいのだ。
人間からは忌み嫌われ、剪定士からは命を狙われ、同族であるはずの吸血花からは爪弾きにされている。
だから自分と話してくれるリヒトーにこうも懐いている。自分を殺そうとしてきた相手であろうとまた孤独になるのが嫌だった。
「つまり他の奴らはどうでもいい。見えない所でなら死んでも気にならないと。」
リヒトーの言葉に吸血花は否定もせず肯定もしない。黙ったまま俯く。
「それなら自分と同じだ。」
が、リヒトーの言葉を聞いてすぐに顔を上げる。
「同じ。」
「そうだ。自分は他人に気をかけるほどお人好しではない。」
それを聞いた吸血花は呆気にとられた後、おずおずと訪ねる。
「俺も、そう考えてもいいの?」
「そうしたいならそうすればいい。」
そう言ってリヒトーは立ち上がる。
「そろそろ帰る。次は、そうだな。三日後でいいか?」
それを聞いて吸血花は嬉しそうに口元を緩める。
「うん! またねリヒトー。」
リヒトーは立ち去ろうと数歩ほど歩き、足を止めた。
「そういえばお前、名前は?」
「名前?」
「呼べないのは地味に不便だ。教えろ。」
自分の名前の有無を訊ねられた吸血花はきょとんとした顔つきになる。
「名前、名前。」
そして記憶を探り始める。
リヒトーは吸血花が答えてくれるのを黙って待っていた。
「…しいだ。」
吸血花はぽつりと呟く。
「それがお前の名前か?」
「…たぶん。」
吸血花は自信が無さそうにそう言う。
「しいだ、いやシーダか?」
リヒトーが言った名前に吸血花は反応する。
「シーダ。」
「違ったか?」
「それがいい。」
「何?」
「シーダ。俺の名前それがいい!」
嬉しそうに吸血花はリヒトーが言った名前の呼び方を自分のものにする。
「お前がいいなら構わない。」
そう言ってリヒトーは今度こそ立ち去って行く。
「またなシーダ。」
名前を呼ばれた吸血花、シーダは嬉しそうな顔で声を上げる。
「またねリヒトー!」
嬉しさのあまり少し興奮した様子で手を振ってリヒトーを見送った。
ビルから出て一人で暗い道を歩き基地へ帰ろうとしている間、リヒトーは先ほど見たシーダの嬉しそうな様子を思い返していた。
「…またね、か。」
先ほど交わした約束の言葉を再び口にしたリヒトーは表情には出さないが上機嫌で来る時よりも軽い足取りで帰って行った。




