ついおくに
寝る準備を済ませてリヒトーをベッドまで運び寝かせた後、シーダは張り切った様子でベッド脇に置かれていた椅子に座り絵本を取り出した。
題名は《オオミのだいぼうけん》だ。
「リヒトーが寝るまで俺が絵本を読む。そしたらリヒトーは字が覚えられるだろ。」
「もう、眠い。」
「寝てていいよ。寝てる間に読み聞かせをすると良いってリヒトーが言ってた。睡眠学習、だったはず。」
「そう。」
「じゃあ読むね。」
会話をするのが億劫になってきたリヒトーは眠っても良いというシーダの言葉に甘えて目を閉じた。
「あるところにオオミという名前の魔法が使える少女がいました。」
シーダの声を聞きながらリヒトーはゆっくりと眠りについた。
◆◇◆◇◆
これは夢だ。
ふと、リヒトーはそう気がついた。
心地よさを感じながら過去の記憶が蘇るかもしれないと期待して久しぶりに見る夢に意識を傾ける。
◆◇◆◇◆
鉈の形をした対吸血花武器で次々と襲い掛かってくる植物の蔦を切り落としていく。蔦の包囲が薄くなった所を見逃さず鉈で切り裂き抜け出す。
周囲を確認すれば他の剪定士が倒れている姿を目にする。生死を確認する余裕は無い。
リヒトーは鉈を構え直し目の前の吸血花に向き直る。
相手は一人。
リヒトーはその吸血花に見覚えがあった。以前夜に偵察に行った時に見かけた人型の吸血花だ。
他の剪定士達が吸血花にやられた為応援を頼むと通信機を通して言われたリヒトーは現場に急行し、指定された場所で吸血花と相対しそのまま戦闘になった。
時間帯は昼。天気は快晴。
最も吸血花が活発になる時間帯と天候であり、人型の吸血花である彼も例外なく力を発揮している。
それでもリヒトーは一人で応戦を続けていた。
幼い頃から一人で戦い続けてきたリヒトーには数多の経験と確かな才能と努力がある。
リヒトーは倒れている剪定士達を巻き込まないよう立ち回り吸血花を徐々に剪定士達から離していく。これは倒れている剪定士を気遣っての行動では無い。吸血花が剪定士の血を吸って身体能力が上がる事を阻止する為だ。
他の剪定士達から吸血花を引き離す事に成功したリヒトーは戦闘に集中する。
互いに一瞬でも気が抜けない。
吸血花は体に生えている蔦を手足のように自由に操りリヒトーへ襲いかかる。
リヒトーは四方から迫ってくる蔦を鉈の形をした武器一つで立ち回る。
血に比べれば劣るが水と日光があれば長時間の活動ができる吸血花に対し剪定士は改造手術のおかげで身体能力が大幅に上がっているとはいえ負傷はするし体力に限界がある。
リヒトーとて例外ではない。
このまま戦い続ければ先に倒れるのはリヒトーだ。リヒトー自身それをはっきりと自覚している。
この状況を変えようと、リヒトーは大きく動こうとした。賭けに等しい行為だが、リヒトーは迷い無く行動に移した。
リヒトーがしようとしている事は単純な事。
特攻だ。
リヒトーは蔦を斬り飛ばしながら吸血花に向かって突進。切り崩さなかった蔦がリヒトーの肉体を裂くがリヒトーは走る邪魔をする、命を脅かす蔦以外は気にかけず特攻を続ける。
傷だらけになりながらもただひたすらに特攻を仕掛けるリヒトーを見て怯んだのか吸血花は一瞬だが蔦の動きを止めてしまう。
その隙を見逃さずリヒトーは一気に吸血花と距離を詰め吸血花の頭を狙って鉈を振る。
迫ってくる刃物に対し吸血花は上半身を動かして間一髪でかわそうとする。
しかし避けきれなかった。
吸血花の顔にかかっていた部分の長い髪がリヒトーの手によってバッサリと刈られた。
前髪が短くなった事で吸血花の驚いた顔をはっきりと見たリヒトーは追撃しようとした。
しかし吸血花は即座にリヒトーから距離を取りそのまま逃走。
リヒトーは追いかけようとしたがそれよりも早く吸血花はその場から離脱していった。
吸血花の姿が見えなくなった後、リヒトーは呼吸を整え少し体の力を抜く。
「…意外と綺麗な顔をしていたな、あいつ。」
残されたリヒトーはぽつりと吸血花の顔を見た感想を呟いた。




