えほん
「…暇だ。」
リヒトーは日の光が当たる地面に寝転がり独り言を呟く。
リヒトーがここに来てから数日が経過した。
その間、何事もなく穏やかに過ごしていた
ご飯を食べて、体が鈍らないよう鍛錬し、日が暮れたら寝る。
ここに来てからリヒトーはそれの繰り返し。
今まで吸血花と戦い殺してきたリヒトーにとっては穏やかで退屈な日々。
鍛錬に飽きてこうして上をぼんやりと眺めながら寝転がる事しか他にやる事が無い。
「暇だ。」
もう一度言うほどリヒトーは時間を持て余していた。
起き上がり家に戻るとシーダが椅子に座って本を読んでいる姿をリヒトーは目にした。
「リヒトー。日向ぼっこはもういいの?」
戻ってきたリヒトーに気がついたシーダは本を閉じてテーブルの上に置きリヒトーに向く。
「もういい。何を読んでいた?」
「これ? 《オオミのだいぼうけん》っていう絵本だよ。」
そう言ってシーダは古びた絵本の表紙をリヒトーに見せる。
表紙にはシーダの言っていた絵本の題名と可愛らしい絵柄で描かれている左目に花をつけた少女の絵をリヒトーはじっと見る。
「《オオミのだいぼうけん》というのか。」
「…そっか。リヒトーはこれも覚えてないんだ。」
「どういう事だ?」
「記憶を失う前のリヒトー、これ読んでくれたんだ。」
「何?」
「今のリヒトーは覚えてないだろうけど、リヒトーのおかげで俺文字の読み書き少しは出来るようになったんだ。」
リヒトーが絵本の事を覚えていない事に対しては少し悲しそうな様子を見せたかと思えば、かつてリヒトーに絵本を読んでもらった事を思い出して嬉しそうに微笑むシーダ。
表情をころころと変えるシーダに対してリヒトーは無表情のまま絵と題名を交互に見ていた。
「自分をこれを読めていたのか。」
「そうだよ。」
「そうか。」
リヒトーは絵本に書かれている題名が読めなかった。
しかし以前のリヒトーはこれを読めていた。
シーダの話と今の状態からリヒトーは自分が知識の一部も失っている事に気がついた。
「リヒトーも読む? 他にも本があるんだ。雑誌もあるよ。」
そうとは知らないシーダは立ち上がりその場から離れる。少し待っているとシーダは数冊の本や雑誌を持って戻ってきた。どの本も汚れていたり破れていた。シーダはそれをテーブルの上に置く。
「どれ読む?」
「…これにしよう。」
本当は読めないのだがなんとなく言い出せなかったリヒトーは雑誌を手に取り椅子に座る。
「他のも読むから置いておいてくれ。」
「分かった。」
読めないが暇つぶしにはなるだろう。
見ていたら記憶が蘇るかもしれない。
そんな思いと期待があってリヒトーは本を見る事に決めた。
◆◇◆◇◆
リヒトーはシーダが持ってきた本に一通り目を通し、夕飯が用意されるまで何冊かじっくりと見たが、文字が読めるようになる事はなかった。
「今日は熱心に本を読んでいたけど気に入ったものはあった?」
眠くて重い瞼に抗いながら食事を摂っていたリヒトーに眠気覚ましにシーダは話しかける。
「読んで、いない。」
「え?」
「字が読めなくなった。」
「え?!」
眠気で冷静な判断力が低下し記憶を失っている状態でもシーダに対して少し気を緩めているリヒトーは正直に話してしまう。
「知識の方も、問題があった。」
そう言いながら今にも眠りそうなリヒトー。
シーダは立ち上がりリヒトーを支えて外に連れ出そうとする。
眠気でまともに動けず考えられないリヒトーがそのまま眠ってしまわないようシーダが世話をする。
ここに来てから二人の日常の行動となっていた。
「リヒトー。」
シーダはリヒトーを支えて歩きながら話しかける。
「だったら今度は俺が教える。」
「教える? 何を?」
「本を読む方法。前にリヒトーがしてくれた事、俺がやる。」
シーダはやる気十分な様子でリヒトーに告げた。




