ねだって
夢から覚め、目を開けると窓から差し込む朝日に気がつく。
そして自分の上にシーダが乗っかる形で眠っている事に気が付き、すぐに押し退ける。
「あうっ!?」
そのせいでベッドから床へと落ちるシーダ。
「何するんだリヒトー!」
「重い。」
「君が抱きついたんだよ。」
リヒトーはシーダからの抗議を聞き流しながら先程まで見ていた夢について考える。
「おい。自分とお前が出会ったのはどんな時か覚えているか?」
「え?」
唐突な質問にシーダは目を瞬かせる。それでもすこし黙った後、リヒトーの質問に答えてくれた。
「俺とリヒトーが出会ったのは廃墟になった街だよ。と言っても初めて会った時は何も話さないですぐに帰ったけどね。」
「そうか。」
リヒトーが見ていた夢に出てきたシーダらしき者もリヒトーと話す事なく立ち去って行ったのをリヒトーは覚えていた。
自分が見ていた夢が過去に実際にあった出来事なのだろうか。
そんな考えがリヒトーの中で芽生える。
「どうしたのリヒトー?」
考え事をして何も話さないリヒトーを心配して声をかけるシーダ。
「なんでもない。」
「そう。何かあったらすぐに言って。」
リヒトーは夢の事をシーダにまだ話す気はなかった。夢が過去の記憶であるという確信を持てるまでは話さない方がいい。根拠はなかったが、リヒトーはそう思った。
「着替え持ってくるね。」
「分かった。」
リヒトーの考えている事に深入りせずシーダはそう言って寝室から出て行くのを見届けた後、リヒトーはシーダが来るまでの間窓に近づき外の景色を眺めていた。
◆◇◆◇◆
「で? 自分は何をすればいい?」
「え?」
シーダの用意した朝食を食べ終えたリヒトーはテーブルを挟んでリヒトーの向かいの椅子に座っているシーダにそう話を切り出す。
「お前が自分を助けた理由は、納得はしないが理解はした。自分を食糧扱いしないと言ってくれた。その上衣食住まで保証してくれる。」
記憶を失っているリヒトーはシーダの事を完全には信用していない。
「自分は何をすればお前にこの恩を返せるんだ?」
それでも助けてもらったのは事実。
だからリヒトーはそれに見合うお返しをしなければならないと考えていた。
リヒトーからの申し出にシーダは目を見開いて少しの間固まり反応が遅れる。
「…逆だよリヒトー。」
それでも自分の考えを伝えようとする気持ちはあった。
「逆?」
「俺は君から色んなものを貰って、教えて貰った。だからこれは君へのお返しなんだ。見返りなんていらないよ。」
「…本当に?」
「え?」
シーダの話を聞いて、反応を見てそれが全てではないと気がついたリヒトーは掘り下げる事にした。
「本当にそれだけか? お前は自分の事が好きなんだろ。」
「え、いや、その。…そうだけど。」
顔を赤くして最後の言葉は声が小さくなりリヒトーから視線を逸らすシーダ。
それに対してリヒトーは無自覚に追い詰める。
「別に責めているわけじゃあない。打算的な考えがあった方が納得がいく。」
「打算的って、俺はそんなつもりじゃ」
「あるだろ。」
羞恥で顔をさらに赤く染めるシーダの反応を見てリヒトーは図星かと確信する。
「シーダ。自分には記憶が無い。お前の話が真実なら自分には頼れる存在がお前だけになる。」
自分以外の剪定士が全滅した事はリヒトーが思っている以上にショックな出来事だった。記憶すら失っているリヒトーが頼れるのは本来敵であるはずの吸血花のシーダのみ。
「自分は記憶が戻るまでの間お前の世話になるつもりだ。だが、タダ飯を食らう気は無い。」
リヒトーは無償の愛を信じられない。
「だから自分に対価を払わせろ。」
下心があって自分を助けてくれた方が気が楽だとリヒトーは思う。
「…対価って言われても。」
シーダは顔を赤く染めたまま下を向きもじもじする。
リヒトーは黙ってシーダの言葉を待っている。
「…だったらお願いがある。」
意を決した様子でシーダはリヒトーの目を見て要求を伝える。
「俺が帰って来たらおかえりって言ってほしい。」
「…は?」
予想していたものとは違ったシーダからの要求にリヒトーは目を丸くする。
「そんなものが対価になるのか?」
「なる!」
シーダは力強く断言する。
「俺、たまに出かける事になるからここに帰って来たら絶対におかえりって言って。」
シーダからの要求はリヒトーにとってはささやかで釣り合わないものだったため困惑する。
「他に無いのか?」
「リヒトーが元気に過ごしてくれる事が1番の対価だよ。」
「…本当に?」
「本当に!」
リヒトーは納得いかなかったが、シーダに押し通されてしまった。




