逆襲
誠達は地下3階を進んでいた。芝離宮地下に建設された内調本部の地下構造は地下1階から3階まで、それほど大きな変わりはない。
職員の訓練施設や医療施設、ブリーフィングルームなど、幾つかのエリアに別れ、複数階続いている構造だった。
勝手の分かっている誠達は、素早く湾岸道路側の出口まで、誰もいない施設を透過して進んでいた。
すぐに誠達は、マッドドクターが2階上に集まっている場所まで辿り着いた。
6人がまとまって部屋に透過した瞬間、天井が崩れた。
驚いた誠達の目の前には、異様なヘルメットを頭につけた四人の男が直立していた。
「蒼井? カブト…」
ミオの呟きを見て、レディも叫んだ。
「なんだありゃ?」
蒼井聡と春川恭平は、全くの無表情だった。
頭には、幾つもの電線が走った、異様なヘッドギアのようなものをつけている。
4人は揃って、Tシャツなどの下着姿で、腰にウエストポーチのようにバッテリーボックスをつけ、そこから走る電線が胸、首、肩、肘、手首等全身と繋がっていた。
「驚いたかね諸君。
これは私の、数十年に及ぶ影繰り研究の成果の結晶だ。
脳の適切な部分に刺激を与えることにより、影の力は、いや影の力だけでなく人体は、驚異的な力を発揮できるのだ!
さぁ、私のしもべたちの力を堪能するがよい!」
天井に穴が開いていた。
それは人一人が通れるほどのものだが、スラブ厚が1メートルを超える鉄筋コンクリートの核シェルターを短時間で2階分掘り抜いた、と思うと驚愕だった。
突然、4人が動き始めた。
誠は全員を防御シャッターの奥に逃がした。
が…。
厚さ30センチの鋼鉄のシャッターが、奥の人物の、おそらくパンチ一つで、グワリ、と膨らんだ。
「な…、何なん? あれ?」
高屋のささやきにミオは唸った。
「無理やり力を出させているというのか?」
蹴りやパンチで、鋼鉄がアルミのようにドンドン歪んでいく。
「美鳥さん、あの銃使いとノコギリ使い、解放されてしまいました…」
誠の呟きに、美鳥は、
「あのパワーじゃ、どうにもできないわね…」
悔しそうに呻いた。
「ちょっと待てよ!
あんな事して、肉体は持つのかよ!」
レディが叫ぶ。
「持つわけがない。
拳を鍛えた格闘家だって、鋼鉄を殴れば骨が砕けるだろう…」
「止めなきゃ!
いくら恭平が腐った奴だって、あんなこと、やらせる訳にはいかないよ!」
「だが止められるのか?
ワンパンチで鋼鉄をへこませる程の力だぞ。
近づくことすら自殺行為だ…」
ミオは影繰りとしての修業時代、ある格闘家が素手のパンチでスズメバチを殺すのを見た。
蜂は、1パンチで、内部から爆発して、ミンチになっていた。
おそらくは…。
その程度の破壊力は、持っている事だろう…。
ミオは唸った。
「骨格が耐ないのなら、放っておけば、やがて骨折や筋肉の損傷で動けなくなるわね」
美鳥が冷静に言う。
「待てよ!
それじゃあ放置するっていうのか?」
「動けなくなったら治療はします。
すぐに医務室だってあるんですから」
誠も言った。
「そして残るのがマッドドクター1人なら、皆でかかればなんとかなる。
最悪1,2人催眠術にかかっても、奴さえ殺せば、影能力は解除されるだろう…」
ミオの言葉に、レディは、
「…それを待つ、って事か…」
呟いて黙り込んだ。
と、誠の背後で爆発が起こった。
おそらく地下2階辺りのスラブが、強力な力で破砕されたものらしい。
アハハハハ、とマッドドクターが笑ってた。
「諸君。
ナイトが生きていたよ。
さあ、パーティの始まりだな!」
誠は愕然した。
自分が止血したために、あの甲冑男も、蘇ってしまったのだ。
そこにハイテンションな、白人老人の流暢な日本語が聞こえてきた。
「君たちは愚かにも、彼らの肉体が耐えられないと思っているだろう?
私が、そんな愚かな真似をすると思うのかね。
彼らの体は、影のオーラで守られている。
そんな途方もないオーラがあるか、と思うだろう。
あるのだ。
むろん永遠に続くものではない。
だが1生分を1日で使い切る、と考えたらどうだろう。
それが、どれほどの強度を生み出すか、君たちは考えたことなどないだろうね。
脳には、その扉があるのだ。
あるいはダムと言った方が判りやすいかもしれないな。
通常、ダムは決壊しない程度に水を放流している。
それが君たちの影のパワーだ。
しかし、私は、それを決壊させる方法を知っている。
私の言わんとしていることが、判ったかね?
君たちには2つの選択肢がある、という事だ。
絶対に適わないが、彼らと戦い、死ぬか。
それとも起爆装置を渡すかだ。
逃げられるなどとは考えない方がいい。
なぜなら影の力を解放した彼らは、五感も尋常のものではないからだ。
彼らは何処までも君達を追うよう暗示をかけている。
だから私が止めない限り、君らはいつか必ず、君たちに追いつき、殺すだろう。
即答しなくてもよい。
考える時間を与えよう」
マッドドクターの話が終わった途端、攻撃が停まった。




