93状況
マッドドクターが立っていた。
「さて、君たちを侮っていたようだ。
少し戦力が不足していたな。
まぁ、カブトや蒼井に期待はしていないが、ナイトがやられるとは思いもよらなかったよ。
小田切誠君か。
君はどんな鍵も無効にするブロックバスターと聞いていたが、どうやら、その域を超えてしまったようだな。
例えるなら総合的破壊者、アルティメットバスターと言ったところか。
しかし、だ。
本当のアルティメットバスターは私であり、私の作った電磁波爆弾なのだよ。
いいかね。
この椅子には起爆装置が仕掛けられている。
私がスイッチを押せば、東京の何もかにもが滅んでしまうのだ。
お判りか?
判ったならカブトと蒼井は私の護衛につけ」
カブトと蒼井はよろよろと立ち上がり、地下1階にジャンプした。
「よろしい。
それでは装置の起爆シーケンスを始める」
マッドドクターが指を伸ばした瞬間、車椅子は地下2階に落ち、誠の影の手で受け止められた。
「これは、あなたの手には渡しません。
とりあえず、こうします」
誠は、透過して地下3階に車椅子を運んだ。
「やれやれ。
君には困ったものだね、誠。
私の言うことをよく聞き給え。
爆弾は…」
語り掛けたマッドドクターの右手が、唐突に光った。
小型のフラッシュを手に持っていたらしい。
瞬間、誠達は地下に落ちた。
「おい、大丈夫か?」
レディが声をかける。
とはいえ、今のレディは美少女レディではなく、春川順平という男子高校1年生だったが。
「いてて、俺、顔から落ちちまったぞ…」
井口は春川順平と同じ高1だ。
「すいません。
とにかく、あの光から逃げることしか頭に無くて…」
誠は、俯せに薄暗い地下空間に倒れていた。
「みんな無事なようね」
と美鳥が言う。
「誠、ここは何処なの?」
「それが、不意を突かれたんで、慌ててとにかく落ちただけなんですよね。
たぶん地下4階か5階なんでしょうが…」
「おいおい、内調地下は軍事拠点なので、幾ら我々でも勝手に入れない区画はいくらでもあるんだぞ」
ミオは、周囲を見回すが、そこは何も無い運動場のような場所だった。
「まあ、ここは問題なさそうだが…」
「ああ。
ここは多分地下四階の格闘室の一つだろう」
レディは言った。
「しかし、危なくってマッドドクターには、迂闊に近づけないな…」
井口は身を起して、顔を擦った。
「うちは、目ぇ瞑ってたわ」
高屋は得意げに言うが、誠が、
「大丈夫とは思いますが、一応、自分でフラッシュを見た方がいいかもしれなせん」
「これ、壊しちゃった方がいいんじゃない?」
美鳥は、自分の横に横転していた車椅子を叩いた。
「いや、仕組みが判りませんから、勝手にいじらない方が安全ですよ」
誠は慌てた。
美鳥は残念気に椅子を睨みつけたが、車輪を蹴飛ばすに留めた。
「それにしてもアクトレス教官たちはいつ帰ってくるのかしら。
もう、最低何人かの影繰りは帰っていてもいい頃よ」
言いながら永田に電話をかける。
美鳥のスマホは、美鳥が一人仕事を多くする影繰りのため、誠達のものよりもセキュリティがしっかりしていた。
美鳥は、永田さん~、と話し始めた。
少なくとも、永田は基地内に戻っているらしい。
誠は、薄暗い格闘室を見渡した。
格闘室って言うと…。
戦う部屋、って意味なんだろうな…。
まだ、基礎的な訓練しか受けていない誠は、その存在すら知らない部屋だ。
美鳥の電話が終わった。
「どうでした?」
美鳥は首を傾げて、よく理解はできないけれど…、と前置きして話し出す。
「船は前園真理恵先生の指示で佃大橋の手前で係留されたようよ。
川の流れる速度と、爆弾が起動する速度を合わせることで、なんとか起爆タイマーを誤魔化しているらしい。
ただ船底部に、びっしり機械が取り付けられていて、かなりまずい状況らしい。
どうまずいかは、私に聞かないで。
判るのは、あの辺りは水深が浅いためにムーンライト号の船底と川底が接触しそうで、もし引き潮になった場合、いつ粒子加速器が自発活動に移るか判らない、という事だけよ。
問題は、爆弾を解除するためには、水に潜って機械を取り外すしかないのだけれど、今から潜水士などのプロを呼んでいたら引き潮になってしまう、ってこと。
だからアクトレス教官をはじめ影繰りたちは、今、必死にスキューバダイビングを行っている、って事らしいわ」
「みんな墨田川なんですか!」
全く知らなかった展開に、誠は唖然となった。
墨田川って、潮汐と関係あったんだ…。
このまま引き潮になったら、それで東京は壊滅するのか…。
マッドドクターの計画は起爆装置だけにとどまらず、船が停まっても爆発、そして引き潮になっても爆発、というように幾重にも罠は張り巡らされていた。
ちょうど、あのドールマスターのダンジョンのように…。
「つまり、ここは僕たちだけで戦わないといけないんですね…」
誠は、重い声を絞り出した。
「どうしても、この車椅子だけは守り切る必要があるな。
もしドクターに起爆されたら、墨田川にいる仲間は全て…」
ミオの言葉に、誠は息を呑んだ。
「蒼井聡は人質を連れていませんでした。
しかしパスワードとカードは聡の手にあった。
つまり警備の方はもう亡くなっている、と考えるべきです。
そしてこの基地にはドクターの催眠術に抵抗のない一般職員が多数いて、当然ドクターは彼らを仲間にするでしょう」
「永田さんに連絡するわ!」
美鳥の言葉を遮るように、誠は言った。
「それだけでなく、この基地の深層階で出入り自由になっていた蒼井は、手ぶらで帰ってきたのでしょうか?
基地のゲノム情報は、既でにドクターの手にあるかもしれません…」
全員が言葉を失った。
誠は言った。
「永田さんに会いに行きましょう」
互いに視線を交わしあい、誠達は落下した。




