89偽装
「最初から爆弾が目的だったんですか!」
「ドクターはそうだと思う。
蒼井は内調に復讐したくて仕方なかったんで、恭平と一緒に上手に乗せられたんだ。
元々は、内調の秘密が露見したら面白い、ぐらいだったんじゃないかな?」
ミオは首を傾げた。
「なんで、そんなに東京を破壊したいんだ?
あの人に何か憎まれるようなことを我々はしたのか、見るからに白人のようだったが?」
レディが答えた。
「ドクターは頭のネジが1本、跳んでいるのさ。
自分の開発した爆弾を実際に使ってみたい、だけど狂っているから、本当に大災害にはならない規模の都市で行っても詰まらなかったんだ。
ニューヨークでも北京でもドバイでもいいけど、あまり軍隊とかが動き出すと後が面倒だ。
だから東京だったんだ」
「それじゃあ、本当にマッドドクターじゃないですか。
いや、むしろマッドサイエンティストだ」
「だが、金勘定もしっかりできるぜ。
言ってみれば、これはドクターの商品見本市なんだ。
ここで世界がビビるような成果を上げれば、ドクターの爆弾は売り手市場、テロリストから軍事大国まで、幾らでも金を積み上げる、って計算なのさ」
「悪辣ね…」
美鳥の声が震えた。
「じゃあ、もう爆弾を…」
誠の声は震えた。
「残念ながら、今は白目を剥いているから無理だ。
恭平が慌てて介抱しているよ、オシメ一つでね」
ケタケタとレディは笑った。
誠が疑問を投げかけた。
「カブトさんには起爆装置は押せないんですか?」
「電磁波爆弾っているのは複雑らしいぜ。
まず外周1キロに及ぶ光ファイバーの中で超高速で電子だか分子だかを回転させて、良い感じの亜光速に上がった時点でタイミングよく爆発させてやることで、一種のビーム砲みたいなのを上空の大気層にぶつけて拡散させるんだ。
起爆装置と言っても、蒼井が持っている玩具じゃなくて、大きな車椅子そのものが複雑な装置なのさ」
「あ、あれが起爆装置なんですか!
KCジャパンの梁川さんが、段ボールを三人で運んだ、なんて言うから、てっきり偽物なのかと思っていました」
誠は感嘆した。
「つくりは単純さ。
椅子は安物の座椅子と変わらないし、それに鉄パイプと車輪がついたようなものだ。
ただ肘のところ両側に電子部品が入っている。
色々なメーターやボタン、キーが無いと動かせないセーフティロックなんかだ。
スイッチを押せば起爆する、ってもんじゃない。
ドクターと蒼井と恭平が制服を着て運び上げたが、とてつもなく重かった、と恭平は愚痴っていたよ」
「じゃあ,レディさんには全てを話したってことですね?」
「いや、こっちが催眠術にかかっていると思っているから、こそこそ蒼井と恭平が喋っているのを盗み聞きしていたんだ」
「ん、待ってください?」
誠は聞いた。
「僕が人質で水上バスに乗ってから、レディさんは蒼井聡と会ってませんよね?」
「そうだ。
俺は最初から催眠術には、おそらくかかっていなかったんだ」
えっ! とミオは叫んだ。
「だって君は、あんなに恭平とねちっこく…、いや、仲良く…」
喋ってミオは赤面した。
レディはキャッキャと笑った。
「だってミオの顔がおかしくって!」
「なんだって!
じゃあ君は、僕を騙すために演技をしていた、っていうのか!」
レディは真面目な顔になり、言った。
「違う。
蒼井たちを騙すためだ。
そしてドクターの秘密を探らなきゃならなかったからね」
誠は興奮して聞いた。
「それで秘密は判ったんですか?」
レディは頷く。
「俺なりにはね。
推測だが、俺が催眠術にかからなかったのは単純至極、ドクタ-の眼を見ていなかったからだ。
俺は恭平しか見ていなかった。
恭平の顔しかね。
あいつと俺は13年間、ほとんど24時間一緒に育っていたんだ。
奴が何かをやらかすときの顔は、すぐ判る。
だから、俺には何かが始まるのが判っていた。
それで恭平だけを見ていたんだ。
面白かったよ、腹の落書きとか、オムツとか、ね。
恭平の演技も、俺は腹の底で笑いながら見ていたのさ。
そして、そこから導き出されれる結論は、ドクター自身にも、相手が催眠術にかかっているかどうか判らない、という事だ。
ただ注意点としては、ドクターは見る気にさえなれば、催眠術にかかった人間を通して、見たり聞いたりできるらしい。
ミオが見聞きしていることも、時折探っていた。
ま、考えてみれば百人以上の人間を催眠術にかけているんだ。
一々全員の頭の中なんて覗いていたら、調べるだけでおかしくなっちまうんだろうな。
特に俺みたいに完全にかかったふりをしていたら、確かめる気にもならないだろう。
結構大変だったんだぜ。
だから俺は、恭平とだけ話すようにしていたんだ。
恭平は馬鹿だから、俺が頬をスリスリして可哀そうがっていれば何も疑わないからな。
蒼井はズル賢いから極力近づかなかった。
ミオ、君もだ。
君に近づけば、俺が演技をしていることぐらいはすぐに察してしまうだろう。
だが、君の心はマッドドクターに見られている。
だから、常に恭平とベタベタしていたのさ」
ミオは肩を落とした。
「そういう事だったのか…、それなのに私は君を疑って…」
「まぁまぁ落ち込むなって。
俺は、自分でも本当の自分が判らなくなるぐらい、色々演じている人間だ。
実際、男の娘の、あたし、が本当なのか、学校で順平をしている俺と、昔の大人しい僕、どれが本当の自分かなんて、俺本人にも判らないよ」
ハハハ、とレディは笑った。




