85影
一つ先のシャッターを透過して超え、美鳥は電話に出た。
開いているシャッターの前での会話を避けたのだ。
「なに、誠。
永田さんがミオさんの用意が整った、って言ってるけど?」
誠は顔を輝かせた。
「もう一度、レディさんを説得するのに、ミオさんは欠かせません。
それで永田さんにテレポートをお願いしたんです」
誠は、シャッターの一区画ごとに用意されている消火器を取り出すと、消火器と入れ替わるように言ってくれ、と美鳥に伝えた。
消火器が、防火タイル張りの床から微かに揺れながら消える。
と、その場に身長190センチ、体重120キロという力士のような大男が現れた。
「あら、法力さんなの?」
美鳥が言うと、大男は、人の良い笑顔を浮かべて、
「いやあ、宝田は船の壁に激突して失神しましてね。
いや外傷は無いようなんですが…」
「ああ。
あたしら、甲冑男に追いかけられて、必死こいて逃げてたのやわ」
「テレポートは便利な能力なんですが、意外と危険なんですよ。
自力で走っているぐらいならまだいいのですが、うっかり列車や飛行機の中でやってしまうと、大変な事になるんです」
確かに普通列車でも100キロ近い測度が出る区間もあるだろう。
飛行機ともなると、大変な速度だ。
宝田は周囲を見回し、
「まだ、その辺にいるんですか?
私、相撲は得意なのですが、影の戦闘はからっきしで…」
「ぼんがやっつけてくれたんよ。
ボンはほんま、ええ影繰りやわ」
法力は、ほぅ、と誠を見下ろし、何か言いかけるが、誠が遮った。
「すいません宝力さん、今度はミオさんと変わってください」
法力は、ああ、と頷く。
「そういう訳ですね。
初めは、なんで消火器と? と思ったんですが、なるほど、こうすれば向こうにいるミオさんをこっちに呼べるわけだ。
いいアイデアだ」
法力は、ニッコリ親指で合図をし、揺らめいて消えた。
一瞬の後、ジーンズとセーター姿の、男装していないミオが現れ、がっしりと誠の肩を掴んだ。
「ああ誠君!
レディはどうなっているんだ?」
誠の肩を凄い力で揺さぶる。
さすがはアクトレスと互角に渡り合ったダンサーチームの力だった。
「すいません、説得はしたんですが…」
「成功した、思たんやけどね…」
高屋が口添えする。
誠は、じっとミオを見つめると、人差し指を立てて発言を禁じ、自分のスマホに文字を打ち込んだ。
-ミオさんの服を調べてください‐
高屋と美鳥が調べるが、何も見つからなかった。
誠は頷き、スマホを打つ。
‐ミオさん、申し訳ありませんが、少しの間、後ろを向いていてください‐
ミオは頷き、後ろを向いた。
誠は、
‐青山さんはどうなったのかメールで聞き、メールで返事をもらえるようにしてください‐
と書きだした。
美鳥が、誠に返事を見せた。
‐今、ベットの上だ。
うわ言のように、残像、影、写真、と同じ言葉を繰り返しているらしい‐
とメールに書かれていた。
誠は、考え込んだ。
残像?
影?
そして写真?
影は影繰りの事だろうか?
残像と写真、はマッドドクターの光による催眠術と関連があるのだろうか?
残像、は強い光を見たときなどに目に焼き付く像の事か?
写真も、ある意味、光の残像なはずだが…?
誠は、は、と息を飲んだ。
そしてスマホを操作し、ミオの肩を叩いた。
振り向いたミオに、誠はスマホで、フラッシュを浴びせた。
廊下の奥から、ぎゃあー、という叫びが聞こえてきた。
美鳥たちは意味が判らず、誠を凝視した。
「あの叫びがブラフかもしれませんが、正解だったのかもしれません。
もう少しすれば解るはずですが」
「どういう事なんだ?」
ミオは目を抑えながら、聞いた。
「マッドドクターの催眠術は、光に関係している、と思っていましたが、間違いでした。
逆なんです。
強い光を見せると、太陽を見た時のように強い残像が生まれます。
この残像の影こそが、マッドドクターの影の正体なんです。
強い光とともに、影そのものを相手の脳に焼き付ける能力なんです。
ちょうど、フィルム写真のネガのようなものです。
今、純粋な光だけをミオさんに見せてみました。
それで本当にマッドドクターの影が追い出せたのか、今から判ります。
美鳥さん、永田さんに、寝たきりの人質の眼を開いて、フラッシュを見せるよう、言ってください」
美鳥が連絡を入れた。
しばらく経つと、遠くから、再び、ぐぁぁ、と悲壮な叫びが立て続けに聞こえてきた。
「やっつけたん?」
「判りません。
しかし、遠く離れた場所の人質にフラッシュを見せても苦しんでいるところを見ると、まぁまぁ成功かもしれません。
永田さんに人質がどうなったのか聞いてみてください」
美鳥は電話をし、話した。
「人質の目が覚めたようよ。
青山さんも目を覚ましたって」
たぶん大丈夫なのだろう。
と、誠は思った。
だが、叫び声とは、ずいぶん、判りやすいブラフにも思える。
解けた、と安心させているだけかもしれない。
とにかく、先に進めるしかない、と誠は永田の言っていた言葉を思い出して、考えた。
失敗したら、その時に又考えればいいじゃないか…。
「これからの敵の行動で、あの叫び声がブラフなのか、本当にダメージを負っているのかが判ります。
ブラフならば、この場に留まるでしょう。
アクトレス教官たちが帰ってきても、返り討ちに催眠術をかけていけば何時間もかからず本部は制圧できるはずだからです。
僕たちは、今度こそレディさんたちを取り戻るために、出口で待ち構えましょう」




