82説得
「うわっ、放せよ!」
叫んだレディ、春川順平が影の手で支えられて天井から降ろされ、、高屋に包み込まれる。
わぁ…、とレディは力の抜けたような声を上げたが。
レディの背中から伸びた3本の分銅が、高屋の肉の隙間から飛び出すと高屋に襲い掛かった。
誠は、影の手で分銅の一つを叩き、天井に突き刺さらせた。
分銅は爆発するが、美鳥の蝶が、即座に覆いつくし、ほとんど被害は出なかった。
もう1つの分銅は、井口の三羽のカラスの1匹が、体当たりで弾き、他の2匹で、動きを止めた。
重量級の分銅の動きを止めるとは、井口のカラスも、なかなかのパワーを持っているようだ。
最後の1つは、直接高屋を狙ってはいなかった。
誠から数メートルの床に突き刺さり、爆発したのだ。
密封された空間で火炎爆発が起こると、周囲の酸素を燃焼させ、室内は真空状態に陥る。
つまりレディは一人で誠達4人を全滅させられるわけだ。
だが…。
美鳥の蝶が、それを防いだ。
火が上がる瞬間には、予め室内に飛ばした数千匹の蝶が、3つの振り子に集まっていた。
何十何百もの蝶に貼り付かれて、ごとり、と分銅は力なく床で跳ねた。
「レディさん、聞いてください!」
誠が叫んだ。
「あなたがカブトのお医者さんだと思っている人物は影繰りです。
彼の力は催眠術なんです。
レディさんは、その影繰り、マッドドクターの力で催眠術にかけられているんですよ。
ミオさんはそれに気が付き、術が解けました。
レディさんも、正気になってください!」
高屋の肉に包まれてくぐもった声で、レディが、うるせぃ、と叫んだ。
再び分銅を動かそうとするが、美鳥の蝶が、天井や壁に分銅を固定させていた。
「カブトさんは、怪我なんてしていないんです!
人工皮膚を無菌室でもないデュエルルームで開いて見せたりしますか?
尿をしたオシメの中に人工臓器を剥き出しで置いたりしますか?
よく考えてください!
マッドドクターはあなたたちから離れたのち、ムーンライト号という豪華客船を乗っ取って、今、墨田川を遡上しています。
その船には、電磁波爆弾というものが乗っていて、爆発すれば東京は壊滅するかもしれないんです!」
分銅は、凄いパワーで、鎖を動かそうとしていた。
美鳥は次々に蝶を重ねていくが、それでも壁や天井が揺れていく。
「あなたは東京中の人より、カブトさん1人を取るんですか。
東京には、ミオさんもご両親もいるんですよ!
カブトさんは健康です!
あなたは騙されていたんです。
そう、最初から騙されていました。
デュエルルームでレディさんとカブトさんの置いていったカードを見ました。
カブトさんが負けて、山札を見せている様子でしたね。
レディさんは見せなかったんですか?
山札の枚数を数えましたか?
レディさんの山札にはカードが15枚あった。
カブトさんのは8枚だった。
何故でしょう?
カードをこっそり捨てていたからです。
何を捨てていたと思いますか?
赤の土地カードと赤緑のマルチカラーカード資源回収、火マナを出す炭鉱のエルフ、X火力の火炎放射でした。
レディさんも覚えてるでしょう。
土地を大量に並べ、マナを出した後で土地を生贄に捧げることで倍のマナを得、火炎放射で瞬殺するワンターンキルのコンボカードです。
カブトさんは、盤面でいつでも勝てたんです。
マルチカラーを出しさえすればよかった。
カブトさんは、何度も勝利を味わいながら、レディさんにわざと負けて見せたんですよ、死にそうな演技をしながら。
カブトさんは未だに、そう言う人なんです!」
ジャラン、と鎖が床に落ちた。
高屋が抱擁を止めると、レディはクタクタと床に倒れた。
「…おい、本当かよ?
火マナがあのデッキに入ってたって?」
「スマホに撮っておいたので、見ますか?」
誠はスマホをレディに見せた。
レディの山札15枚の写真。
カブトの山札8枚。
死してテーブルの隙間に挟まれた炭鉱のエルフや資源回収カード。
場にいる妖怪の数だけマナが出る伝説の土地、妖怪大学まで揃っていた。
「あのクソ野郎…」
「レディさんも知っているでしょう?
妖怪大学や資源回収は禁止カードなので、今は手に入りません。
レディさんを寝返らせるために僕らが用意したりは、いかにKCジャパンでも出来ないんです。
KCジャパンで展示されているものでも、絶版カードは黄色くパウチされて絶対に使えないようになっている。
なので、これは元々カブトさんが持っていたものだと推測するんですが、どうですか?」
「そうだ。
カブトは日本を出るとき、大事なものはすべて持って行った。
俺が羨ましがっていた妖怪大学や、黒の闇の精霊なんかもな」
「えっ、闇の精霊って、幻のカードじゃないですか!
確か3つの妖怪カードを重ねて、闇の精霊なんだけど、何かのイベントで、ヨシオドールの作者が絵を描いた闇の精霊が抽選で何百枚か、配られた、とか」
「ああ。
夏の東京ドームのイベントに2人で行ったんだけど、カブトしか当たらなかった。
触らせてもくれなかったよ、今思い出した。
「いいなぁ。
見るだけでも、見てみたいなぁ…」
誠が夢中で言ったので、レディは噴き出して笑い始めた。
「お前もハマってたんだな」
「あの当時の小学生は、みんなハマってましたよ」
「そうだよな…」
レディは呟くと、突然、3つの分銅を動かした。
影能力は精神の力だ。
美鳥は、力を抜いてしまっていた。
3本の分銅が天井に突き刺さると、ガゥン、変な爆音がして、なんと天井に穴が開いた。
核シェルターにもなる本部の床スラブはゆうに1メートルはある。
しかも間は鉄筋ではなく、太いH鋼が使われていた。
二人の謎の影繰りに車椅子の両側を支えられたカブトが、ふわりと降りてきて、その後ろから白髪の白人の老人が軽い身のこなしで下りてくる。
「俺の必殺技、3つの分銅をドリルのように放つ螺旋分銅だ。
凄い破壊力だろ?」
寂しげにレディは、フフ、と笑った。
「レディ!
あなた騙されているのよ!」
美鳥が叫んだが、誠は美鳥と高屋の手を引き、叫んだ。
「失敗です。
逃げましょう!」
四人は壁を透過した。




