80起爆装置
「ほうほう、なるほど。
爆発力で、現在ケーブル内を高速移動中のパルス波を一気に高高度に打つ出す原理ですね。
面白いわ。
電磁波爆弾は、まだ机上の空論だと思っていたけど、これは機能しそうね」
前園真理恵は内調所属の科学者だった。
内調の武器開発部門を担当している。
宝田法力とは別にムーンライト号に乗り込んできた科学者だった。
今どき珍しい大きな眼鏡をかけ、ボーイッシュなショートカットに髪を切り上げた容姿に、スレンダーな小柄な体で、ジーンズにハイネックの軽装で現場を走るように歩いた。
「ほぼ、エンジンの爆発力そのものを電磁波照射の起爆剤として、東京直上に発射する事により電磁パルスを拡散させ、高高度核爆発並みのEMPを得ようと言うのですね。
規模がどれほどのものになるかは判らないけど、成功すれば大惨事は免れないわね」
電気を追っていた大平は、博士の後ろで図面の束を抱えて困惑し、訪ねた。
「先生。
爆弾の解除はどうなるんですかね?」
前園真理恵は少年のような、しかし仄かに膨らんだ胸に腕を組んで、明言した。
「残念ながら、現段階で迂闊に解除に踏み切れるものではないのです。
なぜなら、理論上は理解できても、一つ一つのパーツの意味をまだ理解できないのだから。
駆動中のガソリンエンジンの分解などしてごらんなさい。
あたり一面火の海です」
大平は、後ろ頭を掻きながら戸惑った。
「しかし先生。
もう佃大橋まで1キロ無いんですよ…」
「一つ提案をしましょう。
エンジンの出力を下げるのです。
それで幾分、時間が稼げるでしょう。
その間に、この装置を堪能、いや研究できるでしょう」
「でも先生。
エンジンの制御ができないんですよ?」
巨大なエンジンは、心臓の鼓動にも似た盛大な唸りを上げてフル回転を続けていた。
山崎が小山にも等しい鉄の塊に取り付き、必死に機械と格闘しているが、形勢は思わしくないようだ。
「燃料の燃焼率を下げればいいのです。
酸素によって燃焼はコントロールできる、そうではありませんか!」
山崎は、むっくりと体を上げ、少し考えた。
「でも先生。
うっかり、そんなことをして爆発しないんでしょうか?」
「基本的には、起爆装置はデジタル入力されているはずです。
あなたなら、読み取れるのでは?」
「いや、そんなことをしている時間がないから困っているんですよ」
「話の分からない人ね。
来てみなさい!」
ビシッと言い放つと前園真理恵は靴音も荒々しく、エンジンへ梯子で登り、発見されて以来、手をつけられていない旅行用スーツケースぐらいの大きさの黒い装置に対峙した。
持っていた工具箱を開くと、マイナスドライバーを取り出し、装置を覆うカバーの隙間に差し入れた。
大平は真っ青になって叫んだ。
「せ、先生。
勝手にそんなことをして、もし爆発したら!」
「この機械をセットした者がいるのですよ。
数字も入れないで、どう自分たちの目的を遂げる事が出来るのですか?
カバーは、当然外れるものです」
パコン、と音がして、表面のカバーが外れた。
音に驚いて、大平は飛び上がった。
機械の中には、小型のタイマー装置が幾つも並んでいた。
「ふん、内部はアキバでも売っているような、普通のタイマーの様ね」
前園はタイマーのボタンをガチャガチャいじり、告げた。
「5ノットまでは下げられるハズです。
どのような速度感知器が取り付けられているのは不明ですが、この機械の感じではそう精密という訳でもないでしょう」
ほ…、本当ですか?
間違いないんですか?」
「ここにあるものが機械の全てならば単純な計測器で作られたものです。
この船全体が爆弾ですが、起爆装置はあり合わせで、このコードで…」
前園は細い指で線をなぞった。
「機関部の出力計に接続されているようです。
機械は単純ですから、たぶん外部に別の機械がある、とは思えません。
この部屋の出力計と連動しているものと考えて、いいでしょう。
だから5ノット以下で機械が作動すると言ったんです!」
「先生…。
5ノット以下なら、5ノットじゃ駄目ですよねぇ…」
大平の言葉に、前園真理恵は大きな眼鏡を持ち上げ、言いなおした。
「5.1ノットならば平気です!」




