79爆弾
アクトレスは漁船に乗せてもらい、墨田川から水路で内調に向かっていた。
濃厚な潮風が、アクトレスのゴージャスなロングヘアーを巻き上げていたが、全く意に介していなかった。
スマホが鳴り、アクトレスは黒い革製のスーツ仕立ての革ジャンの胸の谷間に手を突っ込み、無造作に電話を受けた。
「はっ!
あの箱、爆弾だったのかい?
エンジンと連動していて、エンジンが止まると爆発する?
やってくれるね、それで、原爆なのかい?
えっ、違うのかい?
何だい、電磁波爆弾って言うのは聞いたことがないねぇ」
永田は受話器に怒鳴っていた。
「俺もよく分からん。
なんでもムーンライト号の喫水線の下にぶっとい電磁ケーブルが巻かれていて、それで爆発的な電磁波を空に打ち出すんだそうだ。
それが上空の電離層にぶち当たると、範囲がどのくらいになるかは判らないが、全ての電子機器がぶっ壊れる。
心臓のペースメイカーからスマホ、飛行機や電車、車を含むあらゆるコンピュータ、最近は信号も電子機器なんで、どんな被害が出るのか、想像もつかない」
漁船が波にぶつかって、大きく弾んだ。
「で、どうすりゃあいいんだい?
ん、エンジンを止めずに、佃大橋にもぶつからないようにするしかない?
なんだそりゃあ?
えっ、スクリュウーシャフトを切断する?」
アクトレスは電話を切ると、叫んだ。
「至急、宝田と法力を探せ!
二人は船に逆戻りだよ!
急げ、東京壊滅だってよ!」
「僕が影の手で押さえている間に美鳥さんが蝶で包んでしまう、というのはどうでしょう?」
「レディを説得するつもりだったら、やめた方がいいでしょうね。
相手は、ますます怒ってしまうわ」
うーんと唸って、誠は閉ざされた通路を歩き回った。
どうししてもアイデアが浮かばない。
体を動かせなくしても、分銅は自在に動かせる相手には、誠の透過も美鳥の蝶も、烏や高屋さんの球も、ほぼ無力だ。
「友好的に落ち着いて話せば、ミオさんに言ったように、話の矛盾なんて、幾らでも話せるのに!」
頭を両手で掻きむしった誠を、突然、高屋が抱きしめた。
と、同時に高屋は膨らんだ。
誠を包む、肉の布団、いや肉の壁のようになる。
しばらく抱きしめられていた誠を、高屋が放した。
誠は、ヘロヘロと床に崩れ落ちて、呟いた。
「参りました…。
なんですか、これは?」
ははは、と高屋は笑い、教えた。
「男にはなぁ、これが案外効くんやで。
力抜けるやろ?」
「はい、全身の力が抜けます…」
誠は黙り込んだが、やがて口を開いた。
「つまり、これでレディさんをフニャフニャにさせて、説得できる空気を作ろう、と…?」
「案外、理詰めで話すよりも、こういう方が効く場合も多いんやで」
しかし美鳥は懐疑的だった。
腕を組んで、黒い上着の袖を握りしめている。
「もし、間違えたら高屋さんの背中に分銅が突き刺さるのよ」
「そこは僕たち3人で防ぐしかないですね」
「あれは爆発するのよ。
ちょっと防げる自信がないわ。
まず、あの分銅をどうするのか、ちゃんと考えないとまずい」
「僕の影の手で分銅を掴めれば、数は3つと決まっているので、だいぶいいんですが、レディさんは自在に分銅を動かせるので、うまく掴めないと大ごとですね」
「爆発後の火だけならば、蝶で消火は出来るわ。
爆発までは、無理かもしれないけど」
井口は、ははは、と、
「俺は小田切が分銅を掴めるよう、誘導するよ。
俺にできることは、それぐらいだ」
「では井口さんに協力してもらい、僕の影の手で分銅を抑える。
爆発は仕方ないけど、その後の火は、美鳥さんが消火をする、でしょうか」
高屋はププッと笑いだす。
「消火で、しょうか」
「別に、そんな下らないダジャレを言うつもりでは…」
誠は赤面した。
「えーやないの、面白いこと言ーたら、胸張ってええんやで」
美鳥は溜息をついた。
「いいわ。
それでやってみましょう」
誠達は、1階下に落ちた。




