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シャドーダンス2 東京炎上作戦  作者: 六青ゆーせー
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70/166

70勝鬨橋

「催眠術にかかった人質の救助はどうなんだ!」


ムーンライト号の一等デッキでアクトレスは叫んだ。


実は、ムーンライト号は無人などではなかったのだ。

船底に近い部分に、おそらくマッドドクタ-の催眠術にかかったらしい、全く無反応にただ立っている男女120人を内調は救助した。

乗客ばかりで、今のところ船員は一人も見つかってはいなかったが。


彼らに一人の死傷者も出したくない。

それでなくとも内調側は、吉井一曹を始め3人の死者を出していた。


初めにショッピングモールにペアで向かった二人の優秀な影繰りも、ドールマスターに殺されていたのが発見されたばかりだ。


誠たちを本部に向かわせたのは、無論、誠の話が現実になったら日本は致命的なダメージを負うためだが、もう一つに、入って1か月の少年に顔を見知った三人の遺体を見せないためでもあった。


まー、まだ、そういう臭いを覚えるには、ちょっと早いだろうしなぁ…。


アクトレスは長い髪を掻き上げた。


「人質は二等甲板に集めて、今、救命ボートで降ろしています。

ただ、催眠術が解けないままなので、皆、苦労していますよ。

押さないと歩かないし、船に乗っても自分から座ったりしないんですから」


むぅ、とアクトレスは大きくせり出した胸を包んでいた革ジャンの胸を、少し開いた。


まったく、蒼井聡とかカブトとか、訳の分からない奴らがチョロチョロ動き回っているのに、マッドドクターまで現れるとはどうなっているのか。


最初はアクトレスも、マッドドクターの名は聞いたことはあるが相当のロートルのはず、ぐらいにしか思い出さなかったが、永田に調べさせるととんでもないことが次々に判ってきた。


アクトレスが仕事を始めた十数年前、マッドドクターは既に過去の伝説的な影繰りだった。

彼が一番活躍した時期は朝鮮戦争から冷戦、1989年にベルリンの壁が壊れるまでの時代だった。

もちろん、面識はおろか、同じ戦場にマッドドクターがいる、等という状況の経験もない。

内調も必死に資料を集めているが、さすがの永田も奴の事はほとんど知らなかった。

ただ朝鮮、ベトナム両戦争では、悪夢のような働きをし、勲章などももらっているレジェンド的な影繰り、ではあったことは判った。


「とにかく一等デッキの人間は全員、下に降ろしました。

今、谷川陸士長が最後の見回りをしています!」


田出一等陸士の報告に、


「おいおい、もう、ぶつかっちまうだろ、勝鬨橋と!」


アクトレスは思わず船首を振り向いた。


が…。


ごぅ、という鈍い鉄の音と共に、目前に迫っていた鉄橋の橋げたが、大きな軋みを上げて、動き始めていた。


さすがのアクトレスも唖然と、それを見上げた。


「こんなことまで、やれんのかい?」


その昔、勝鬨橋の橋げたが、大きく左右に開いた事は、アクトレスも物の話に聞いてはいたが、まさか今の勝鬨橋を開けさせられる影繰りがいようとは思わなかった。


橋は、その中央部の橋げたをゆっくり広げ、ムーンライト号は勝鬨橋の下をなめらかに滑っていった。

見事に開いた橋の横を、純白のムーンライト号のブリッジが通り抜けていく。


橋で見物をしていたらしい野次馬たちが、盛大な拍手と歓声が巻き起こしている。


アクトレスも信じられない思いで、反り返った橋の裏側を眺めていたが…。


「佃大橋に接触するまで時間がないよ! 早く人質を下すんだ!」


もう、次の橋が墨田川の先にはっきり見えていた。



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