68勝鬨橋
永田は吸い終わったタバコのパッケージをグシャリと潰し、電話の応対を続けた。
「水上バスが見つかったのか。
で、人質は?」
日の出桟橋の外れで、レディとカブトや、18名の人質を乗せた水上バスは見つかっていた。
だが、水上バスは川面で停止していて、依然、人質を取ったままらしい。
荒事のできる影繰りは、医師吉岡を含めて、全てムーンライト号に突入していた。
「そうだな…。
何か動きがあったら教えてくれ」
どのみち、蒼井聡は水上バスにも爆弾を仕掛けてあると言っていた。
その言葉がブラフであろうと無かろうと、永田たちは迂闊に手を出すわけにはいかない。
一方、アクトレスたちはムーンライト号を沈没させていいか聞いてきていた。
ほぼ墨田川なので水深はそれほどではないので、完全に水没まではしない。
だが、いつまでも巨大客船を引き留めてはいられないのだ。
「あー、山崎、そっちはどうなっている?」
山崎は、非戦闘員の影繰りだった。
どちらかと言えば、青山に近いといえるだろう。
彼の専門は、機械修理。
どんな古い機械でも、山崎は影で無い物を補い、機械を動かしてしまう。
それにしても…。
山崎は空の部屋を見上げた。
そこは、元、勝鬨橋の橋梁を上に開くための動力室だった。
この橋梁が開くことにより、大型船舶、差し当たっては豪華客船ムーンライト号、を隅田川に引き入れる事が出来る。
永田さんも無茶を言うなぁ…。
無い物を補うんじゃなくて、一から作れって言うんだから…。
太めの体で、のんびりと山崎は考え、そして影を発動させた。
「はい、開きますよ。
後5分ください」
誠たちは、芝離宮にふわりと着地した。
へたへた、と高屋は地面に膝をついた。
それを井口が介抱している間に。
「行くわ!」
美鳥は、ミサイルを発射していた。
美鳥の蝶は、高度な感知能力を持ち、しかも何千羽も同時に発生させられる高性能な影だ。
だが、欠点がないわけではない。
蝶の速度でしか飛べないのだ。
そのため風のある場所で、遠くまで早く蝶を飛ばすには、美鳥自身が接近するしかないのだが…。
アクトレス教官クラスの近接ファイターと接近戦をするには、蝶の鎧を着て体力アップを図っていても、まだ足りないことが1か月前の戦いで解り、どう工夫するか、と悩んでいた。
誠は、どこかでそれを聞いていたらしく、ある時、ポロリ、と喋った。
ミサイルで撃ち出せばいいんじゃないですか?
は、ミサイル?
買いたてのスパッツと、真新しいスポーツ用Tシャツから、まるで鍛えられていないシルエットを浮かばせる中3の誠は、訓練室でも変に目立っていた。
同じ、小柄でもレディはミオさんに鍛えられていて、トレーニングシャツ姿では、それなりの筋骨をしているのだが、誠は少女のような細い体で、それでも、なんとか訓練に耐えている。
取り立てて運動神経が良い訳でも、力が強い訳でも、スピードがある訳でもなかったので、誠の頑張りは、トレーニングに精通した影繰りたちからは、ちょっとした不思議現象、として捉えられていた。
その誠の、小学生のような幼い発想に美鳥は呆れたのだが。
翌日、やってみると、意外にもそれは正解だった。
影のミサイルを、美鳥は肩から打ち出す。
そのミサイルは蝶でできていて、しかも数十の蝶を収納できる。
そして敵に突き刺さると破裂し、蝶の大群が襲い掛かるのだ。
芝離宮の池の中央に作られた島に、二発のミサイルから百ちかい蝶が舞い上がった。
簡易に組み立てたらしいパラボラアンテナの周りに集まった3人の男に、黒い蝶が襲いかかった。




