61現実
キッズルーム。
そこは、一応壁で仕切られているものの大きなガラス窓があって、中で子供が遊ぶ姿を外から見れるようになっている。
子供が危なくないよう工夫されたフワフワのトランポリンやら、滑り台やら、大きなボール、小さなボール、かわいい遊具で満載の場所だ。
まさにドールマスターのラストダンジョンに相応しい場所だった。
キッズルームの横には、商魂逞しく玩具フロアが設置されていた。
スポーツグッズから、ジュニア用のスポーツグッズや水着になり、やや曖昧な感じでポケモン人形や可愛らしい玩具がスポーツ用品と混ざり始めて、部屋の奥は全て玩具フロアからキッズルームになって、商業フロアの行き止まりになる。
誠も吉井一曹の出したマップを見ていたので、ここが行き止まりであることは知っていた。
キッズルームという特質上、商業フロア一階や三階のように船室に直通するのではなく、わざとゲームフロア先のエスカレーターまで戻らないと別の階や船室、後部甲板の遊戯施設に行けないようになっているのだ。
子供がフラフラ出歩かないよう計算された設計だ。
美鳥さんが僕を連れてここに向かったのだから、間違いなくドールマスターはこの先にいるはずだった。
二階フロアをゲームフロアに向かった時点で、僕もそのぐらいは気づかなければならなかったが、あの時の僕は、ただ美鳥さんの後ろを付いて歩いていただけだった。
何も考えていなかった。
美鳥が苛立つのも、今なら判る。
誠は、影繰りのバトルが殺し合いだという事を、まったく気づいていなかったのだ。
1か月前、誠は3人の影繰りに襲われた。
誠が影繰りに目覚めたのが原因だったが、あの時、3人の敵は誠を殺さず、捕獲する目的を持っていた。
当然、戦いはプロレスめいた力の誇示合戦になっていた。
今、思えば、あの時は敵味方双方、誠にまだ、現実の影繰りの殺伐した世界を見せたくなかったのだ。
誠にどれだけ精神的耐性があるかは判らなかったし、下手をして心が壊れたりすれば、その時点で誠の商品価値は無くなってしまう事もある。
即座に殺していいのなら、戦場の黒犬アクトレスは言うに及ばず、バタフライと名乗る大男でも良治と呼ばれたナイフ使いでも、誠など瞬殺できていただろう。
誠には、1つ、引っかかっていた言葉があった。
あの時、アクトレスが語った「首切り信二郎」という言葉の意味だ。
今、誠は、その事実に気が付いた。
永田のバリアーは、決して平和的な防御の力ではない。
本来は、一瞬で相手の首を切断する、まさに殺人者の技だったのだ。
何度か、アクトレス教官や永田指令にそのことを聞こうかと思っていたが、聞かなくて良かった。
そんなことを子供に聞かれたら、彼らも返答に困るだろう。
影繰りとは、本来、そういう世界だった。
漫画の異能バトルでは、あまり殺人にフォーカスは向けられない。
殺伐した内容に堕ちてしまうからだ。
だが影の世界は、本来、影繰り同士が敵味方として出会っていたら、必ず…。
片一方は、命を失う。
そういう、戦いが現実だった。
誠は、首の傷をもう一度触った。
次に、あんな無様を曝したら、僕はこの世に生きてはいない。
それだけではなく、この船の原子爆弾は爆発し東京は壊滅してしまう…。
だから僕が、ドールマスターを、殺さ、なければならなかった。
少なくとも、殺せる、という事を、ドールマスターに知らしめて、美鳥への負担を少しでも減らすので無ければ、美鳥さんの横に立っている意味はまるでない。
誠は、キッズルームを透視した。
豪華客船のキッズルームらしく、テニスコートで言えば二面分ぐらいはあるリッチな遊び場だ。
ピンクや黄色のパステルカラーで作られたお城や遊具が、楽しそうな雰囲気を醸し出している。
遊具だけではなく、子供もいた。
三人の子供が、ポツン、ポツン、としゃがみこんでいるが、まったく動いていなかった。
ドールマスターの殺人人形だ。
一見、ドールマスターの姿は見えない。
間違えたのか…。
誠は、細かい部分まで目を凝らした。
すると、おそらくキッズルームの職員が使うのだろうオフィスが、キッズルームと玩具フロアの、ちょうど境界線に、玩具フロアもキッズルームも見られる形で作られていた。
そのオフィスに一人の男が座っているのが、誠の視線に入ってきた。
誠は、初めてドールマスターと、視線を合わすることになった。




