60不意打ち
誠は、床下で俯瞰の感知を使い、至近距離には動く敵がいないことは確認した。
そして、床下から透過してファションフロアに戻り、天井に視線を走らせた。
あの黒いボールを発見しようと思っての行動だ。
だが…。
テニスウェアが展示されていた衣装スタンドの背後、プラスチックの筒に入ったテニスボールやスポーツ用品が並ぶ棚の上に、不可解な形をした置物があることに誠は気づかなかった。
前衛的なデザインのトースターと言われても違和感はない、正方形の金属の箱だ。
その箱の左右にL字型の大きなアームがついている。
その左右のアームが、独特のデザインの基調になっていたが、誠が床から浮き上がり、天井に視線を向けた瞬間、アームが垂直に伸びて、箱が浮き上がった。
正方形の箱が、くるりと、左右のアームに吊られて回転すると、何かを撃ち出した。
誠が慌てて視線を戻した瞬間、誠の首は、切断されていた。
あ…。
思う隙もない。
それは、小さな分銅を先端に付けた、ピアノ線のようだ。
1メートルほどのピアノ線を撃ち出し、同時にクルンと回転させる、それだけの仕掛けだった。
馬鹿な…。
誠は思う。
僕がここに出るのが分かっていたのか?
あのボールが、やはり誠の位置をドールマスターに報告していたのだろうか?
しかし、それにしても、このトースターは、周囲をテニスボールの筒や、ラケット、様々なスポーツのボールなどに囲まれて、動いた形跡も全くない。
どういうわけなんだ…?
誠は、冷や汗を眉間に流した。
瞬間、透過が間に合わななければ、誠は即死していたはずだった。
ただ射程に入ったら作動する、地雷のような機械なのだろうか?
誠は銀色の金属を海中に落とし、自分の首を、鳥肌を立てながら、撫でた。
「痛っ!」
首の皮が、薄く切れ、指先に血がついていた。
本当に、一瞬の差、だった…。
僕がこんな死に方をしたら、美鳥さんはきっと悲しむだろう…。
ともかく、もっと影が纏えるようにならなくちゃ…。
誠は今まで、自分は透過して身を守るタイプなのだ、と考えてきた。
だが、いつまでもそれでは、きっと不意を撃たれることを、今、嫌というほど学んでいた。
何の脈絡もなく作動する、今のトースターのような機械が地雷のようにあちこちに設置されている、と考えると、動くのが怖かった。
だが、動かなければ、また銃で狙撃される。
誠は、空中に胡坐をかいたまま、スポーツ用品のコーナーを進んだ。
野球のバットやグローブもある。
サッカーのユニフォームや様々なサポーター、運動音痴の誠が気にしたこともない、小さな器具や衣類が、おそらくジャンル別、なのだろう、薄暗い中にファッショナブルに展示されていた。
スケートボードやローラースケートもある。
船の上で使えるのか疑問だが、自転車も販売されているようだった。
そういった物の購買スペースには、誠には意味不明な金属部品が、ホームセンターのように山積みに展示されていた。
何が飛び出してきても、おかしくない気がして、近づく気分になれないのだが、もし金属部品のコーナーを避けるのならば、マネキンが様々なスポーツウエェアを着てポーズをつけている一帯に行かなければならなそうだった。
誠は迷った末、マネキンの方に向かうことにした。




