最終決戦
動く前に…。
誠は、今現在位置が分かっていて、しかも落とせる射程にある1体のマネキン、誠の目の前で回転していたマネキンを海底に落とした。
放っておけば、たぶん後十発近い銃弾を撃てるだろうから、放置するわけにはいかなかった。
そうしておいて、誠は影の手で三歩、およそ3メートルを横に動いた。
素早く、二階床上に上がって、影の足で、テニスウェアのコーナーまで急いだ。
銃弾は飛んでこない。
おそらく、標準を合わせるのに時間はかかるはずだ。
メンズで、防寒になりそうなジャケットと長袖ウェアを素早く見繕うと、また床に潜った。
床下でウェアをかぶり、ジャケットを羽織った。
スポーツウェアなので十分に寒さを防ぐとは言い難いが、無いよりはずっとましだ。
床下からの俯瞰の視力は、全体を見るのには良かったが、細かな動きまで観察するのには適していない。
膨大な商品があふれる薄暗い売り場で、マネキンが微かに動いているかどうか、は、やはりフロアでしか見られなかった。
やはり美鳥さんのようにはいかないか…。
溜息をついた誠は、そのまま瞬間、固まった。
床下は、1階商業スペースの天井裏だったが…。
ここにも、2階の天井を転がっていた、あの黒いボールが、転がってきたのだ。
すぐさま床の上に飛び出したかったが、待てよ、と思った。
どのみち、誠のおおよその位置など、とっくの昔にドールマスターにばれてしまっている。
銃で撃たれたのだから、それは確かだ。
このボールが、もし攻撃手段を持っているなら、むろん危険だが、この大きさと、磁石で貼り付き転がるという駆動方法からして、精密な射撃などの可能性は低い。
さっきも考えた爆発、や毒物の散布がせいぜいのはずだ。
本当に危険なのは、至近距離での自爆的行動なので、一定の距離があれば、仮に自爆的行動を行ったとして、誠は二階のフロアに逃げればいいだけだ。
ボールは、誠に特段接近しようともせず、20メートルほど離れて、止まっていた。
僕の動きを監視しているのか?
このボールの動きは、まだ謎だった。
本当に爆弾なんだろうか?
不意に、誠は思いだした。
今まで、一度も、そんな爆発はなかった。
ボーガンの赤ちゃん人形などよりは、はるかに単純な構造なのだから、どんどん爆発させていれば、誠をもっと追い詰めることは楽だったのではないだろうか?
だが、少なくとも2つは、同じ構造のボールを、誠は見ている。
爆発する機能があるものならば、もうとっくに爆発していそうなものではないか?
訝った誠は、しかし、動きを止めた。
微かな音が聞こえてきていた。
誠の知っている音だった。
かすっ、かすっ、と断続的に続く、少し間の抜けたような音。
あの、三輪車を使った長距離射撃用の人形だ。
待てよ…。
吉井一曹、は敵からの放送があったA11ポイントを探しに行き、殺されてしまった。
が、もう一つ、話していなかったか?
パソコンを探し、ここから艦橋のシステムにアクセスする、と…。
もしや、そういうプログラムさえ作ってあるのなら、ドールマスターの殺人人形の大半は、パソコン制御できるものだし、その過程で吉井一曹とドールマスターは接触し…?
むろん、現代の豪華客船であるムーンライト号には、いわゆるスマホ用の無線ランは設備されているだろうが、もし仮に、ラジコン的な、より強い電波を使用しようと思ったなら、電波を中継する機械が必要となる可能性はないのだろうか…?
そう考えれば、幾つも同じものが誠の周囲にあって当然だ。
考えてみれば、ドールマスターは職人気質なのか、同じ形の人形を作らないように見える。
誠が見た、複数ある人形は唯一、このボールだけだった!
誠は即座に、ボールを落とした。
さっきのボールも、すぐ落としておけばよかった!
悔やんだが、今から探しに行く時間もない。
ともかく、今や。
あの長射程の射撃人形が、音の聴こえる場所まで来てしまっていた。
そして多分。
他にもパソコンで操作する、強い電波を使用しなければならないような機械は、続々とここに集まっているはずだ。
美鳥は、ドールマスターまで後僅か、だと言っていたのだから…。
もう既に、最終決戦は始まっていたのだった。




