敵の能力
誠は、空中で自分の居ずまいを改めた。
誰にも見られていないと思ったら、一番見られたくない人に見られていた。
ショックだったが、取り敢えず見た目をなんとか取り繕う。
お姫様抱っこではなく、胡座をかいて、ゆったりと座り、影の足で歩く事にする。
今、この瞬間にも襲ってくる自己嫌悪を握り潰して、なんとか戦いに集中した。
Yシャツは止血に使っていて、ブレザーは忘れてきたので、今、誠はノースリーブのTシャツの上に、剥き出しで防弾ベストを着ていた。
絵面はハリウッドのアクションスターのようだが、影の目を出して見ると、いかにも腕が細くて、頼りなかった。
もうちょっと、腕立て伏せでもやろうかな…、など受験生らしからぬ自己啓発を覚えたが…。
誠は、ゲームエリアを抜けて、どうやらファッションエリアに進んでいた。
回りはそれほど明るくなった訳ではないが、ファッショナブルなマネキンが多数、スポットライトを浴びて暗がりに浮き上がっていた。
誠の周囲、至るところに、マネキン人形が展示されている。
誠は、影の目玉を手に入れたが、使いこなしてはいなかった。
不意に、背後の水着美人が指先に仕込んだ小型銃を発砲したら、多分、誠には対応出来ない。
慎重に影を纏って、ゆっくり進む。
そう考えると、全てのマネキンが自分を見ている気になる。
いや…。
もしかすると、見ているかもしれなかった。
ドールマスターが、どういう影かは判らなかったが、構造的に動かせないにしても、人形の視力ぐらいは使えてもおかしくはない。
今、この瞬間にも、誠は多分、見られている。
それは、確かだろう。
ただし、ドールマスターの力には、不明瞭な部分も多い。
飾りの、キラキラしたモールが襲って来たり、ポップコーンまで蛇のように動かせてみせた。
人形の範疇が、誠の予測より遥かに広いのだ。
そこが恐ろしかった。
彼が人形と判断した物は、全て自在に操れるのだろうか?
手のひらより小さいゲームソフトも操っていた。
例えばレゴ人形や、ソフビの子供の手のサイズの人形も操るのだろうか?
それら自体に殺傷力は無さそうだが、もし猛毒の針でもついていたら…。
例えば、雀蜂は死んでいても、針を刺してくるという。
それがレゴ人形に装備されたなら、物凄い破壊力だろう。
蜂に限らず、自然界には猛毒など幾らもあるし、化学物質もまた数多い。
殺傷力だけの問題ではない。
例えば高濃度のアルコールを注射するだけで、誠などは簡単に戦闘不能に陥らせる事が出来る。
息の根を止めるのは、そのあと、ゆっくりでも、いいのだ。
ファッションエリアを、誠はゆっくり進んでいく。
こうした場所は、敢えて直進が出来ないよう、迷路のようにブースが配置されていた。
ブラジャーの壁が現れ、誠は赤面しながら、横に避けたが、どう着るのか判らない下着のコーナーに出てしまった。
また、思わず汗をかいてしまう。
僕って、結構汗をかく体質なのかな?
ブレザーを失っているので、ズボンを隠すものがなくて、恥ずかしい。
どこか、男物のコーナーがあったら、シャツを拝借しよう…。
カッ。
頭上で、微かな音がした。
敵だ。
本能的に理解する。
天井は、相変わらずの剥き出しだった。




