54、影の体
カスッ、カスッ、という音がしている気がしていたが、あれは三輪車のペダルが動くたびに聴こえる、プラスチックのペダルの回転音だった。
子供の三輪車を利用し、完全取り付け型の自動人形になっているようだ。
見たところ駆動は後輪で行っており、サドルから外付けで長射程のライフル銃が、前輪ハンドルを支柱にして、誠に狙いを付けている。
そもそも大きく動けるような構造ではなく、早く動けもしないようだ。
だが、この三輪車ライフルは今、完全に標準を誠に合わせていた。
同時に、鶏は誠に突進しており、反対側のブースの影から、幼児人形はボーガンを構え、飛び出そうとしていた。
誠は、それらを影の目と透視を使って目視し、自分が、透過、で床下へ落ちた。
瞬間、銃弾は誠の隠れていたブースを吹き飛ばし、鶏人形は、反動で斜め上に吹き飛んだ。
誠は、影の手でフロアの下に掴まっていたので、すぐにフロアに浮かび上がった。
フロアの下にいれば、誠は透過の感知能力、透視で、フロアを俯瞰することが出来る。
今、気づいたが、実際にフロアにいるよりも、ずっと大きな視界が得られた。
誠は、鶏を水底に落とした。
残念ながら、ライフルは射程外だ。
ボーガンの幼児は、走り去っていた。
まずい!
美鳥さんの方に向かってしまう。
動きたかったが、誠は、今、止血状態で、動けば血流が盛んになり、止血が維持できなくなる。
あ、そうか!
誠は、影の足を出して、歩くことにした。
自分の体は、空中に浮かせる形になる。
丁度、影の体が、誠の首とお尻を持って、抱っこしているようなビジュアルになる。
普通の人が見たら、かなり異常な風景が見えるだろうが、この暗いブースでは判らないだろうし、そもそも無人の船だ。
気にすることは無い。
ボーガンの幼児を追う。
ライフルから遠ざかることになるが、あの仕掛けでは、そうそう動く標的に射撃などは出来なさそうだ。
誠自身、ライフルの操作も習っていたが、あの手のライフルの残弾は、十発以下だと思う。
あくまでスナイパースタイルの人形なのだ。
影の足は、誠よりずっと早く走れる。
影を重ねて十人並みだと、ずっと思っていたが、実は影の体は、もっと途方もない力を持っていたらしい。
考えてみれば、五人を抱えて船の壁を走っていたのだから、当たり前だ。
ま、でも重ねた方がいい部分もあるんだけど…。
誠は、この一か月で、かなり筋肉質の体になっていたし、実はタポタポしていたお腹も、微かに縦の筋が浮いていた。
影を重ねると、自分の体も使うので、疲れるし、筋トレにもなる、という事だ。
すぐに幼児人形に追いついた。
幼児人形は背中の弓をボーガンに装てんし、振り向き様、誠を撃った。
誠は、矢を透過し、幼児人形を落とした。
「止まりなさい…」
美鳥の声が、黒い蝶からしていた。
「まぁ、あなたなりにやったようね。
でも、こっちも、もう片付いたから、先に進んで。
この蝶に付いて行けばいい。
だけど、注意してね。
ドールマスターは、ピンピンしてるんだから…」
誠は頷き、黒い蝶を追って、ゲームブースの先、衣料店ブースに向かって歩いていった。




