52、正体
あのハンマーが落ちてきた瞬間!
誠は考えた。
その瞬間、僕がきちんと交わしていれば、そのまま奴を透過で落とせる!
今までは不意を撃たれ、自分を透過して逃げていたので、敵の攻撃方法も判らなかった、が今は判る。
冷静に対処できれば、それ程…。
思いながら誠はブース脇を慎重に進み、その角から透視を使った。
角越しに、その先のブースも範囲に入れて、透過のターゲットにした。
瞬間、誠の目に、緑色に膿腐った巨大な足が飛び込んできて、うわっ、と叫び、思わず跳び退いた。
敵は、誠の乱れを見逃さなかった。
ハンマーが落下した!
誠は、影の手を伸ばし、強引に自分を横に引いた。
5メートルほど距離を跳び、誠は2体の人形を同時に確認した。
ハンマー、は足を天井に付けたまま、ウィンチのついた鉄ハンマーを下に落とす、ある意味単純な人形だった。
ゾンビの足は、それとは別の人形だ。
ゾンビの下半身の上に、何か数センチほどの突起物が、すぅ、と回転している。
何だ、と思った誠が見守る中、その回転物が、僅かな光に、ギラッ、と光った。
銃だ!
台座に固定された、おそらく自動小銃が、滑らかに回転し、誠に標準を合わせようとしていた。
誠は、影の手で、ゾンビの足を殴った。
ドンッ。
暗闇に発砲の赤い光が、瞬間、煌めき、ゾンビの足は倒れた。
何のことは無い、足底に車輪が付いた簡単な仕掛けだった。
ただ、音を気配も立てずに動き、銃を撃つことに特化しただけの人形だったのだ。
が…。
ゾンビの足に気を取られている間に、ハンマーは天井に戻ってしまっていた。
誠は、違うブースの横に滑りこみ、ブースの横板に、したたか体を撃ち付けていた。
痛たぁ…。
頭を押えながら、誠は呻いた。
慌てていて、あれをやるのを忘れちゃった…。
今まで露見しないで済んではいるが、誠は実は運動音痴だ。
体育の評価で普通を貰ったことなどない。
常に、低評価を受け続けている誠の身体能力では、この程度の事がスマートに出来なかった。
それが一か月、露見しないで済んでいるのは、ある驚きの現象のためだ。
影の体を自分の体に重ねると、なぜか運動神経が良くなるのだ。
さすがに、猛者ぞろいの内調の人間が目を見張るほどのものではないが、まぁ、及第点は貰えるぐらいに振舞えることに、誠は驚きと共に感謝も感じていた。
影の体、様々だ。
今は、つい影を重ね忘れていた。
気を付けなくっちゃ…。
が、それよりも…。
今は敵を一つでも少なくするんだ!
誠は、ゾンビの足を海の底に透過して落とした。
その瞬間、背後から飛び出したボーガンをもった幼児の放った矢が、誠の肩を貫いた。
がっ!
激痛が走り、誠は床に倒れていた。




