50ゾンビの巨人
あの巨大人形!
思った瞬間、誠が背にしていたブースが、ドカン、と爆発した。
ジョークかファンタジーRPGにしか出てこないような、馬鹿デカいハンマーが、誠ごと、ブースを叩いたのだ。
ハンマーは床に突き刺さり、ブースの破片やゲームソフトも、凶器に等しい速度で四方に散った。
誠は、透過で身を守りながら、隣のブースに飛び移った。
迂闊だった。
敵は三体だと思い込んでいた。
だが…。
おかしい…。
あんな巨大な人形が動いたなら、微かにも、何か気配があるのではないか?
偶然、ブースを透視しなければ、誠は、粉微塵に砕かれていた。
あれだけのパワーがある、しかも2メートルを超える巨体が、すぐ隣にいたなど、誠は欠片も気が付けなかった。
まぁ、確かに、僕はまだ戦いの素人かもしれないけど、だけど…。
シルエットで見た、あの巨体が動けば、いくらなんでも判るんじゃないか?
新しいブースの影に隠れ、用心に周囲を透視して安全を確認する。
薄気味の悪い足をしていた。
あの素足の様子を見ると、巨大ゾンビとか、その類だろうか?
まるでバイオハザードから抜け出してきたような化け物だ。
腰を浮かせて、じりじりと誠は前進する。
砕けたブースの黒いカウンター板が新しいブースの側壁に突き刺さり、、誠の進路を塞いでいた。
コサックダンスのように、横に一歩、屈みながら進んだ瞬間。
誠のいた場所が、再び爆発した。
誠は透過しながら、低空でジャンプした。
そこで影の手を伸ばして、遠くの床を掴み、自分の体を引っ張る。
一瞬で、3メートルほど横移動しながら、巨大ハンマーの落ちた先を見るが…。
そこにはハンマーが降り下ろされた後の、文字通り円形のクレーターが一個、大きな穴を開けているだけだった。
やっぱり、おかしい!
誠は唸っていた。
あの巨体で、敵の動きは素早すぎる。
そして、正確に僕を狙ってきてい過ぎている!
ドールマスターが、完璧に僕の位置を知っているなら、とっくに僕は殺されていなかればならない。
たぶん…。
ドールマスターにしても、おそらく、人形の視力以上の知覚は持っていないはずだ。
おそらく…。
ならば、あのゾンビの巨人だけが、これほど正確に僕を狙えるのはなぜだ?
僕が発信機でも付けられたのか?
思い、身体を探るが、そんな事で判る場所には、何もなかった。
おかしいのは、他の人形は、誠の位置を知らないことだ。
ドールマスターその人が、ゾンビの巨人の感知していることを知ったならば、ボーガンも、ナイフの翼をもった鶏も誠を襲えるはずなのに、正確な位置を知り、攻撃しているのは、ゾンビの巨人だけなのだ。
自動追尾システム、的なものなのか?
確かに、いくら、そういう影であろうと、何百体もの人形で、同時に57人の影繰りと戦うのは、一人の人間のコントロールの限界を大きく超えているように感じる。
ある意味、AI的な物の判断を取り入れていない、とも言い切れない。
つまり、ドールマスターは、常に何百体もの人形の複雑な動きを操っているのではなく、人形たちは、かなり独力で動いており、ドールマスターは、それを上から眺めながら、要所要所でマニュアル操作に切り替える。
これなら、確かに一体の人形の単価は高くはなるが、楽に多くの敵と戦える。
だが、誠が発信機を付けられたのなら、多分ドールマスターも判るか、最悪、周囲の人形たちも情報を共有出来ておかしくない気がする。
だとすると…。
誠は、一旦、腰を落とした。
発信機でないなら、誠自体が、あの人形の、独自の自動追尾センサーに掴まっている、という事らしい。
今、誠を知るのは、あのゾンビ巨人一体のみだ。
だが、ドールマスターは、人形の動きを追っているはずだ。
もし、奴がゾンビ巨人の捕捉しているものに気が付いたら。
さすがに、誠の命はないだろう。
誠は、できるだけ、息を落ちつけよう、と、思いっきり息を吐きだした。
過呼吸も水泳も、息を吸うのではなく、吐く行為を意図していけば、収まるもの、と誠は教わっていた。
おかげで、水泳は、今では何百メートルかは続けて泳げるようになっていた。
何度かゆっくり息を吐いた誠は、ある事に気が付いて、慌てて頭上を見上げた。
そこに、巨大なハンマーが振り下ろされていた。




