36艦橋
ムーンライト号の艦橋は、一等デッキに付随する熱帯植物園のガラスの多面体の上に、白いアーチをかけるように融合している、最新鋭の電子機器を備えた、ビルなら5階分ぐらいはある建物だった。
「まずいぞ!」
井口は、誠の影の手の中で叫んだ。
鴉の視界で物が見えるため、井口は文字通りの鳥瞰視を備えていた。
「もう、勝鬨橋まで一キロもない!」
勝鬨橋は、隅田川にかかるもっとも外側の橋で、晴海埠頭と銀座を結んでいる。
船はどうやら、勝鬨橋に向かって進んでいるようだった。
誠は温室を登り、すぐに艦橋の白い外壁を越えて、180度の視界を持つ艦橋に全員で透過した。
最新鋭らしい機械がぎっしり並び、ちょっと宇宙船のような面持ちの、小学校の教室ぐらいはある部屋だった。
が、室内は…。
「無人ですね…?」
誠は、首を傾げた。
「さっきの放送、きっと艦橋からしたんだろう、と思ったんですが…」
吉井一曹が腕を組み、
「船は、様々な場所にマイクが敷設されているはずだ。
状況に応じて、艦橋と連絡を取ったり、スピーカーにして船に放送したりするために」
それは、ちょっと誠には思い至らなかった。
「だけどさ。
ここが空って言うのはどういう訳だろう。
操船はどうしている?」
井口が言うまでもなく、吉井一曹は機敏に操舵席に滑りこみ、スイッチをいじる。
「駄目だな。
自動操縦か、遠隔操作なのか、ここからでは船がコントロールできなくなっている」
「いやぁ、橋が迫ってるわぁ」
高屋が悲鳴を上げる。
「そうだ!
爆弾!
爆弾を探さないと!」
誠の叫びに、全員が室内を見渡すが、それらしいものは見つからない。
「最新の原子爆弾と言うのは、ちょっとしたポーチぐらいの大きさらしいからな。
ただ探しても、何かに偽装されていたら、とても見つからない。
食堂のリンゴの1つがそうだったとしても、半径数キロは吹き飛んでしまう」
吉井一曹が、様々な機械をチェックしながら言った。
「あれや! 小金井君、言うたっけ?」
「ああ。
彼なら!」
高屋の言葉に、吉井一曹が頷いた。
ポカンとする誠に、美鳥が、
「小金井君は、爆発物を探知できる影能力者なのよ」
「で…、でも、その小金井さんを探知できないと、すぐに橋にぶつかってしまいますよ!」
誠は叫んだ。
船と橋との距離は、何百メートルかに迫っていた。
そして、この180度視界の艦橋から見ると、勝鬨橋を完全に見下す形になっている。
一等デッキより上は、間違いなく橋にぶつかりそうだった。
「慌てることは無いわ」
美鳥は言って、スマホを取り出した。
「はい、アクトレス教官。
現在、あたしたちは艦橋にいるんですが…」




