33ドールマスタ-
美鳥を先頭に、誠たちは階段を上がった。
そこは船首展望フロアで、180度の景色が見渡せる一枚硝子が三方の壁になった楕円形の部屋だった。
今、船は凄いスピードで竹芝桟橋に接近しようとしていた。
白いテーブルセットや観葉植物で飾られた広々とした室内には、誰もおらず、外の船首デッキに、30人近い男女が倒れていた。
船員らしい男も、乗客らしい女性も、老人や子供も、皆、微動だにしない。
彼らと共に、デッキブラシやモップなど、催眠術で銃に見せられていた清掃用具が、豪華な木製の船首デッキに散乱していた。
誠は、外に出るガラス戸に歩いていく。
「ちょっと。
外には報道のヘリも飛んでいるのよ」
美鳥が言うが、
「でも、どうして倒れているのか、調べないと…。
それに、この格好ですよ、乗客にしか見えませんよ」
「学生服のブレザーに体操着のジャージで?」
「仕方ないじゃないですか。
授業中、急に呼び出されたんだから」
「これからは、いつでも私服を用意しておくこと!」
「もーあんたらは!
喧嘩せぇへんの、この非常時に!」
誠や美鳥の母親世代の高屋は、容赦なく大阪弁でまくしたてる。
船は波に揺られて、常に動き続けている。
ことっ、と乗客の腕が、胴体から、床に落ちた。
「あれ…」
誠は、目を細めた。
なんか変な感じだ。
人間の体の動きでは、無かったような…。
誠は扉を押し開けて、船首デッキに出た。
潮風が顔にぶつかってくる。
一番近くに倒れていた小学生ぐらいの男の子に近寄った。
「美鳥さん!」
誠は男の子の手を持ち上げて、叫んだ。
「これ、人形です!」
「なんやて!」
高屋と美鳥も、船首デッキに飛び出して来るが…。
「ぼん、ヤバイで!」
高屋が銃を構えた。
振り向くと、デッキに倒れていたはずの人形たちが、フラフラと、立ち上がってきた。
誠の手を、グイッ、と男の子が握りしめた。
「痛っ!」
子供の力ではない。
船のスピーカーから、声が聞こえた。
「さて、新しいお客さんが見えたようなので、歓迎パーティを始めましょう」
さっき、原爆が積まれている、と言った声とは、別な男性の声だった。
「私はドールマスター。
人形を操るもの。
皆さん、人形の殺し方はご存知かな」
スピーカーから、勝ち誇った笑い声が洋上に響き渡った。




