32 透視
誠たちは階段を上がって、豪華ホテルのロビーのような広い場所に出る。
ここは二等の客室で、広い廊下に、落ち着いた茶色いカーペットが敷き詰められている。
「誰もいないですね」
「油断すんなや…」
誠の言葉に、高屋は鋭く囁く。
そこからは船側側左右に螺旋階段が儲けられており、それを登ると船首デッキへ出る硝子張りの展望テラスに出られるはずだった。
「爆発音、気づかなかったんですかね?」
あまりに無反応なのが、逆に気持ち悪く誠は感じた。
美鳥も、
「どこかで待ち構えている、ってことかしらね…」
言いながら、軽く腕を振った。
黒い蝶が十数羽、美鳥の周りに出現した。
「上階を偵察するわ」
一番近い船首デッキに誠たちは向かったが、他の影繰りは、各自船の奥に向かっている。
艦橋とエンジンルームには、それぞれ最強に近いアクトレスと自衛官でもある正岡が向かっていた。
「ボンはあっち、見とき」
誠に船の奥の廊下を観視させて、高屋は吹き抜けのロビーから、奥の通路に視線を走らせる。
二等客室は海を見られる左右の部屋が当てられていたが、中央部には図書館など、あまり音の立たない公共施設に使われていた。
つまり、奥の二つの廊下と、下ホールからの人の出入りを高屋は一人で見張るわけだ。
誠は息をつめて廊下を見張った。
透過しようとするとき、誠は透過先がどうなっているのか見ることが出来る。
だが、誠の能力の射程はおよそ30~45メートルほどで、それより先は見られない。
落下に限っては、かなり地下の構造も見えるのは、どうも落ちる分には射程が無意識に伸びるものらしい。
試しに、廊下の一番近くの客室を透過しようとすると、室内が見えた。
無人だった。
誠がそう言うと、美鳥は、
「やっぱり。
悪戯に使っていないでしょうね」
誠は赤面した。
「しませんよ!
と、いうか、使えないみたいなんです!」
「エッチな更衣室とか、見えへんのか?」
高屋も、興味深げに聞いてきた。
「なんだか、心理的ブロックがかかるんだ、って永田さんが言ってました」
「そーゆうの、人間性、ゆうんやで。
ボンは良い子やから、見ぃへんのや。
悪い奴は、見える奴もおる」
「そうなんですか?」
「ほら、サイコパスとか言うでしょ。
そうゆう人が影能力を持つと、見えちゃうみたいよ」
美鳥は言い、
「上、展望テラスには誰もいないわ。
それに…」
美鳥は、不審げに首を傾げた。
「船首デッキにも、敵はいないの。
立っていた人たちは、皆、なぜか倒れて気を失っているみたいなのよ」




