30接触
一隻の屋形船に、武装した57人の影繰りが乗り込んだ。
誠も、着ている服は変わらなかったが、防弾チョッキをブレザーの下に着込み、ポケットには小型の拳銃を忍ばせている。
他に漁船、釣り船、モーターボートなど、生様な船が船団を組み、豪華客船ムーンライト号に群がった。
一方、芝浦埠頭のタンカーは、背後から客船を追っていた。
東京湾には、無数の船がひしめき合う結果となった。
これでは、ヘリやドローンで状況を見ようと思っても、何が起こっているのか、推察できかねそうだった。
船団は、巨大な豪華客船に近づきつつあった。
それは、正に海の城だった。
「よくレインボーブリッジを通ったもんだねぇ」
アクトレスは呆れたように言った。
「作った当時最大の豪華客船クイーンエリザベスも通れるようにしたらしいです。
今は、もっと大型の客船もあるようですが。
ムーンライト号は、あれでも、クイーンエリザベスよりは小さいようですね」
誠は、暢気にスマホで検索をしていた。
透過するため屋形船の船首付近にいるのだが、まだ、最先端にいるのは数百メートルの狙撃が出来る、弓の影を持つ荒木三曹や、まさにライフルの影を持つ橘陸尉など数名で、その後ろに誠やアクトレス、美鳥が控えて、純白の海上ホテルを見上げていた。
「今のところ、人質への発砲はないです」
もう少し接近しないと影能力を使えない井口が、望遠鏡で甲板を見ていた。
誠たちと同じ訓練生で、三羽の鴉を影に持つ。
150メートルの射程があり、また、三羽で別々の行動も出来る面白い影だが、その分制御はとても難しいようだ。
「もう、突っ込んじまうしかないね。
人質が撃たれたら遠距離組は一斉攻撃。一か八かだよ」
「いいんですか?
普通、こういうのって、政治家とか色々…」
誠は逆に慌てたが、アクトレスは通信機のスイッチを切ってしまう。
「現場では、常に事故も起こりうる。
最善を尽くしゃあいいのさ!」
屋形船は、船首の横手から直進を始める。
みるみる、ムーンライト号は近づいてくる。
屋形船が近づいているだけでなく、それ以上の速度で豪華客船が前進しているのだ。
「あっ!」
井口が叫んだ。
「井口は、鴉の視力を使って、甲板を見ているようだった。
「銃じゃないぞ! 持っているのは、デッキブラシだ!」
その時には、もう誠の視界一杯に純白の船首が迫っていた。
タイミングを合わせ、誠は屋形船を透過させた。




