28作戦
一方、蒼井聡が作業服の男、緑川と交渉している間に、誠は、ミオと手を繋いだ時に、ミオの体に移した影の手をミオの耳元に這わせた。
「ミオさん。
いったい何があったんですか?」
ミオは囁いた。
「カブトが怪我をしているのは君も見ただろう。
あれは、後、何日持つかも判らない重症なんだ。
レディはカブトの傷が癒えるまで、カブトに寄り添う気でいる」
「僕の方は、あなたと同席していた医師が、催眠術の影能力を持つ影繰り、マッドドクターだと、ほぼ断定しました。
ミオさんたちは、催眠術にかけられていた可能性があります」
「なんだって!」
ミオは、思わず大きな声を出しそうになった。
あの、レディの態度。
確かにおかしいことは沢山あった。
だが…。
「我々はカブトの傷を実際に見たんだ。
人工皮膚に包まれているが、皮膚の大半を失い、内臓が飛び出していた。
とても作り物には見えなかった」
「その時の様子を詳しく教えてください」
ミオは話した。
医師が点滴を直し、針を弄ったため、痛みでカブトはカードを落としてしまった。
その後、蒼井人工皮膚をペラペラとめくり、内臓が露出した無残な姿が現れた。
「マッドドクターの催眠術は、光が関係している可能性があります。
その時、何か、光はありませんでしたか?」
ミオは考えた。
デュエルルームの照明はカードテーブルの真上にあった。
確か、医師が点滴を直した時、何かが光ったような気もするが…。
「そんな気もするが、ハッキリとは覚えていないな…、すぐ前の事なのに、変だが…」
戸惑うミオに、誠は話しかける。
「すぐに僕でも指摘できる問題点を言ってもいいですか?
まず、着脱可能な人工皮膚というのは聞いたこともありません」
「最新技術だから、見たことは無いだろう、と言いていた」
「そうですか。
でも、いくら最新技術でも、無菌状態の部屋ならともかく、デュエルルームで、いきなり皮膚をはがす、と言うのはどうでしょう?
雑菌が体内に入り放題ですよね?
感染症の恐れは無かったんでしょうか?」
ミオは、はた、と気づいた。
それは確かにおかしい…。
「もう1つ、あります。
皮膚から人工臓器と肝臓が露出していて、その上にオシメをしている、と言いましたよね。
しかもそのとき、おしっこをしていた?
尿が体内に入ってしまいます。
せめて陰部に管を入れて、尿が入らないようにするのが本当じゃありませんか?」
ミオは愕然とした。
そうだ! 全くおかしい!
オシメはあり得ない。
なぜ、こんな初歩的なことに気が付かなかったんだ!
「催眠術です。
気づかないまま、影能力にかけられていたんです。
恐らくカブトさんは健康体でしょう、点滴は生理食塩水か何かですよ。
術を解く方法が分かればいいんですけど…」
誠は言い、ともかく、こんな茶番をする必要は無くなった、と呟いた。
金属製の重たいドアが開き、若い職員がノートパソコンを持ってきた。
作業着の緑川の前に置く。
「ほら、若いの。
お望みの機械だ…」
言うと、若い職員と共にスタスタと部屋を出ていった。
誠はいきなりミオの胴体を影の手で掴み、叫んだ。
「昇ります!」
天井から影の手が伸びて、誠の手を掴み、ぐいっ、と引き上げていく。
蒼井が異常に気が付き、立ち上がった。
緑川と若い職員はドアを閉めると、鍵をかけた。
誠とミオも天井に消えた。
1階上の広い部屋には、永田や美鳥が待っていた。
誠は、美鳥の蝶と交信して、蒼井聡を絶対に出られない部屋に閉じ込める作戦を立てたのだ。
部屋の防犯カメラには、閉じ込められた蒼井聡の荒れ狂った姿が映っていた。
「ちょっと待ってくれ!
蒼井は爆弾のスイッチを!」
ミオが取り乱すが、美鳥は言った。
「鬼太郎君曰く、カブトを殺すはずがない、そうよ。
だいたい、無線なんて、この地下では通じていないわ」
「実際、水上バスは、今も無事だよ」
永田はハハハ、とさすが鬼太郎君だ、と笑った。
ミオは頭を抱えた。
「まだ、僕は催眠術にかかっているのか?
確かに爆弾など、誠君が来るまで一言も話していなかった。
それに…、思い出せないんだが、鬼太郎って、誰なんだ!」




