27コンピュータールーム
蒼井聡の横に、船の入り口で銃を構えていた二人の男が付いてきた。
誠とミオを含む、5人は、竹芝桟橋に再び上がり、内調と警察に取り巻かれた一帯に、まっすぐ歩いた。
何十台ものパトカーが止まっており、機動隊も出ていて、ライフルのような物を構えている。
「道を開けてくれ。
僕らはちょっと、散歩をするんだ」
言いながら、蒼井聡は片手を上にあげた。
そこには、筒の先にボタンが付いたものが握られていた。
「爆弾だよ。
僕がこれを押せば、船は爆発する。だから大人しく通してくれ」
警官隊はトランシーバーで確認を取っていたが、機動隊の盾の列が、二つに割れ、蒼井聡は浜松町に向かう道に向かって、薄笑いを浮かべながら通っていく。
警官たちの間を抜けた後で、蒼井聡が誠に尋ねた。
「さーて、どっちのルートで本部に入った方が近いのかな?」
「本部に行って、いったい何をするつもりです?」
「おお。そうそう。
君は、どこにでも好きに入れる能力を持っているんだったね。
実はね…」
警官隊は、むろん、遠巻きに蒼井たちを取り巻いている。
収音マイクの存在を考えてか、蒼井聡は誠の耳元に口を寄せた。
「君も見ただろぅ、僕のカブトが怪我をしちゃったんだよぅ、とっても可哀そうなんだ。
僕はカブトと合うゲノムを探したいんだ。
ほら、君も聞いたでしょ? ここの一番地下には、1986年からの、全ての日本人のゲノムが記録してあるって。
そこまで僕たちを連れて行って欲しいんだ」
急にねちっこく、蒼井は話し始めた。
顔は見なくとも、船の中でレディさんを見ていた時のような表情をしているのが判る。
が、誠は気づかないふりをした。
「地下のスーパーコンピューターですね」
誠は地下を探った。
アクトレス教官やレディさんのように匂いを追うことは出来ないが、誠は地下を見る能力がある。
それが無ければ、走っている地下鉄に落ちたりできない。
「どうやら、公園に入った方が早いようです」
内調本部は、芝離宮の地下に作られている。
蒼井は離宮を見て、困ったように言う。
「今、やっているのかな?」
「問題ありませんよ」
誠は言って、ビルの間の、路地とも言えない細道を進んだ。
道はやがて、コンクリートの壁にぶつかるが。
手を繋いでください、と誠は言って、五人は手を繋ぎ、コンクリートを通過した。
そこは木々の生い茂る離宮の中だった。
「手早く行きましょう」
公園内には遊歩道が作られているが、誠はまっすぐ進んでいった。
やがて、広い池に出る。
のんびりと、大きな錦鯉が泳いでいた。
池沿いを歩いていくと、池の中央の島に向かって、橋が架かっていた。
「あの島まで行きます」
五人は急ぎ足で島まで到達した。
「落ちます。
影は纏えるんですよね?」
「この二人には、ここで待っていてもらうよ」
蒼井はライフルの男たちに言った。
誠と蒼井、ミオは、島から地下に落ちた。
真っ黒い水の中を落下していくように、三人は闇の中、互いの手の平だけを知覚していたが、やがてコンクリートの部屋に出た。
畳敷きであれば、十二畳ほどの空間だ。
「ここがコンピュータールーム?」
蒼井は見回して尋ねる。
真四角に近い部屋で、一方の壁にモニターが設置されていた。
スチール製の長机があり、回転椅子に大柄な男が一人、座っていた。
他には、もう一脚の机が奥の壁に寄せられていて、電気ポットと急須と湯飲み、お茶の葉を入れる容器があるぐらいだ。
「なんだね!
あんたらは!」
椅子を倒して、大柄な男が立ち上がった。
くたびれた作業服を着ており、安売りらしいスニーカーを履いている。
「おいおい落ち着いてくれよ」
蒼井聡は薄く笑い、ミオに言う。
「この人が乱暴するようなら、お願いするよ、ミオさん。
あんた強いんだろ?」
ミオは、ムスッと、
「君だって、自分の身ぐらい守れるだろう」
「僕は、カブトのためにも、無傷でいないと、計画が台無しだからねぇ」
ふふふ、と笑い、大柄な男に振り返った。
「外の事件を聞いていないのかな?
僕たちは水上バスに18人の人質を取っている。
僕の手に持っているのが爆破スイッチだ。
そこで、おじさんには、ある人のゲノムに地位番近いゲノムを探し出してもらいたい。
判ったら、住所と年齢、顔写真も欲しいな。
それをプリントアウトしてくれ。
そうすれば僕らは退散するよ」
大柄な男は、むぅ、と蒼井聡を見下ろしていた。
蒼井聡は、170センチを少し超えるほどの身長で、ほっそりとしていたので、大柄な男の前では、子供のように見える。
「えらく時間がかかるぞ」
男は言った。
「それだけ、人質の人が辛い思いをするだけだよ」
蒼井は、口元だけで笑った。
大柄な男は、ムスッ、とした顔を崩さずに、
「で、探すゲノムはどれだ?」
「これだよ」
蒼井聡はUSBメモリーを取り出した。
「無理だな。
大事なコンピューターに外部端子を接続するわけにはいかん。
どんなウィルスが入っているか判らんのだからな」
蒼井聡は、大仰に顎に手を運び考えるポーズを作った。
「手打ちなら、いいのかい?」
「それなら問題は無いが、無論、プログラムなどを打ち込まないよう、俺が横で監視をしている」
「ハハッ、僕は素人だよ」
笑顔を作って蒼井は続けた。
「じゃあ打ち込むから、キーボードを用意してよ」
作業服の男は、厳めしい顔をしたまま、机の横の内線電話を取った。
「緑川だ。
ノートパソコンを一台持って来てくれ。
マザーと接続できる奴だぞ!」
怒鳴り気味に言うと、無言で腕を組んだ。




