21催眠術
「青山です」
警備室で待つアクトレスたちに電話があったのは、作戦を開始して五分も立たない頃だった。
「おう、どうだった?」
アクトレスが、監視モニターから目を離さずに聞いた。
「それが、岩井さんには、記憶が無いんです」
「なんだ? その記憶がないっていうのは?」
青山は戸惑った。
「僕にも判りません。
催眠術とか、そんな物なのかもしれません。
ただ、影が岩井さんの脳に侵食した形跡はあります。
つまり…、僕が思うに、催眠術を使う影能力なのではないか、と…」
アクトレスはモニターを見ながら首を捻る。
「催眠術を使う影?
そんなの聞いたこと…、いや、確か、一人いたな。
医者としても一流で、催眠術を医療に使い高い名声を得ていたが、麻酔なしで手術を行い、人を殺してしまって医師免許を剥奪されたとか言う、確かマッドドクターとかいう奴が…、だいぶ昔の話だけどね」
「ともかく、僕の能力では、消えてしまった記憶までは探れません」
アクトレスは決断した。
「よし、青山は海野と共にこっちに戻れ。
すぐ動けるように準備は怠るなよ。
それから木田人事部長には岩井総務部長は無実だった、と報告はしてくれ、詳しい事情はおって内調から知らせる、と言っておけ」
電話を切ると、アクトレスは誠と美鳥に言った。
「よし、七階に乗り込むぞ!」
誠と美鳥は、勢い込んで立ち上がった。
レディは、いや春川順平は、しばらくの間動けなかった。
人を殺して良い訳もない…。
でも、それでは恭平が死んでしまう…。
「…その人が見つかったとして、その人が死なないようにできるのだろうか…」
恭平が、弱々しく、喘ぎながら言った。
「順平!
お前がそんなことに頭を悩ますことは無いんだ!
全ては聡の妄想だ。
そんなに簡単に、人のゲノムが一致するわけないことぐらい、お前だって判るだろう!」
「確かに見つからない確率の方が多いだろうな。
だが、私はやって見ずにはいられない!
そこに情報があるのに、見ずに、このまま恭平の最後を看取るわけにはいかないんだ!」
青井聡は、身を捩るように嗚咽した。
そうだ…。
これは、そういう問題なんだ…。
何もしないで、ただ死を待つ恭平を看取るなんて出来ないじゃないか…。
「俺が、やる。
情報を取ってくる!」
レディは言った。
「いや、君を犯罪者にすることは恭平が許さない。
情報を取りに行くのは僕だ」
青井聡が声を震わせた。
「だが、私だけでは情報は手にすることが出来ない。
そこでミオさん、あなたに手伝ってもらいたい。
なんとか、壁抜けが出来る少年を説得して、情報を手に入れる手伝いをしてもらいたいんだ」
「それなら、俺と誠は仲がいい!
俺が言えば、きっと誠も協力してくれるはずだ!」
レディはスマホを取り出した。
「いや、今はマズい。
私たちを、そして君たちを内調は探しているはずだ。
彼も捜査に加わっているかもしれない。
彼が一人になるのを待ち、接触しなければならない。
それより今は、一刻も早く、本部のある浜松町に移動しよう!」
青井聡は言った。
レディもまた、深く頷いた。




