20殺人
「あ、青山さん! 待っていたんですよ!」
誠は口を尖らせた。
美鳥やレディには従順だが、年上でも、自分より後に訓練生になった青山には、ちょっと慣れた風な態度をとる。
二人で訓練することも多く、愚痴を言い合う仲になっていた。
痩せてはいるが、背の高い青山は、そんな誠を可愛がっていた。
「さて、だんどりを言うよ。
まず若林と嵐山、ヘリポート出口へはエレベーターで一本だから、直行、敵が上がってきた時に備え、物陰で待機。
敵が他所に向かったときには、すぐ降りて来い。
青山と海野は、岩井という職員を尋問する。
十二階に行って木田人事部長を呼び出せば判るようになっている。
何か動きがあったら知らせる事。
松井はここで私らの連絡を中継する。
判らないことは、この警備の梁川さんに聞きな。元陸士長様だよ」
はっはっは、梁川警備員はおおらかに笑う。
「あたしと美鳥、誠は青山たちの尋問の結果を待って、必要なら問題の部屋に乗り込む。
もう少し、待ち時間だけど、気持ちを切らすな。
以上、作戦開始!」
そうして、影繰りたちはKCジャパンビルに散っていった。
ミオと蒼井が部屋に戻ると、レディとカブトは笑い合っていた。
今朝がたまで、火の玉のように怒っていたのが嘘のようだ。
兄弟とはこういうものか? とミオも目を見張る。
青井聡が、カブト、恭平の隣に立った。
恭平は蒼井を見上げ、頷いた。
「順平君、実は恭平は、ただゲームをしたくて、こんな騒動を起こしたのではない。
それは君も察していると思う。
レディは頷いた。
「ただ我々には過去に因縁があり、言葉だけで説明しても理解してはもらえない、と考えた。
だから、今から恭平の現実をお目にかける」
蒼井が医師に頷くと、医師が車椅子の反対側に廻り、恭平が羽織っていたカーディガンを脱がす。
体は全身、包帯が巻かれていた。
一巻き、一巻き、医師が包帯を取っていく。
恭平の体は、胴体、腕、足などが別々の青い布に覆われていた。
「これは最新の人工皮膚です。
まだ市場には出回っていませんから見慣れないでしょうが、今、恭平君は二四時間、これを身に纏う必要があります」
言って、医師は胸の青い布を左右に開いた。青い布は、着物のように左右に重なるようにできていた。
あばら骨が露出していた。
所々残った筋組織や皮膚は黒く、焼けたのか腐敗したのか定かではない。
ただ、今まで感じなかった異臭が溢れた。
死にかけた人間の匂いだと、ミオには判った。
レディが一番ショックを受けたのは別の部分だった。
恭平はオシメをしていたのだ。
石がオシメを取ろうとすると、恭平が恥ずかしそうに、今、出てるから待って、とオシメを押えた。
「そ…そんな物まで取らなくたっていいだろ! 恭平だって恥ずかしがっているじゃないか!」
「だが、事の深刻さを判ってもらうには、見てもらうしかないのです。
申しわけない、順平君。
俺が付いていながら、こんなことになって…」
蒼井は、深々と頭を下げた。
「いったい、どうして、こんな事になっちゃったんだ?」
ははは…、乾いた笑い声を恭平は上げた。
「俺がミスった。
麻薬組織の麻薬を奪おうとして、全身蜂の巣さ。
何とかジャングルを逃げて、聡に助けられた時にはこの様さ…」
石がオムツを外していく。
尿臭が容赦なく鼻を突いた。
下腹部には肉の中からプラスチックの機械が剥き出しになっていて、下に情けない状態の性器が力なくぶら下がっていた。
プラスチックからは掃除機のホースの細いもののような管が出て、腹部に巻かれた帯状の物の中に消えている。
「これも最新式なので見慣れないと思いますが、腎臓と、奥に肝臓があります。今、恭平君はサイボーグと言っても良い。
ただ、現代の科学では、ここまでの再生で精一杯です。
これ以上に回復させるには、臓器移植に頼る他は無いのです」
青井聡が、恭平を軽々と持ち上げ、オシメを交換した。
恭平はされるがままになっている。
今まで、判らなかったが、左腕は神経が通っていないかのようにブラブラしていた。
「移植って、そもそも筋肉や皮膚はどうするんだ?」
「それを含めて移植するのです。
体の臓器を含む、三五パーセントを移植することになります」
「そんな馬鹿げた手術なんて聞いたことがないぞ!」
ミオは言葉を荒げた。
「影繰りであれば、出来る技術はあるのです。
まだ誰もやったことがないだけです」
医師は、顔面の筋肉をまるで動かさないように言った。
「手術はしないと言っているだろ。
順平の顔が見れれば、それだけで満足だったんだ!」
恭平が弱々しく叫んだ。
声が出ない分、悲痛な響きがあった。
レディが聞いた。
「移植って、俺の体から移植すればいいのか?」
「馬鹿野郎。
お前の体に傷一つ付けるもんか!
そんなことをして、俺が嬉しいと思っているのか?」
恭平が取り乱した。
「順平君にお願いしたいのは献血だけです。
恭平が再生したとして、順平君が、その時生きていなければ恭平もまた生きる意欲を失ってしまう。
それでは、大手術を乗り切れないし、リハビリする意欲も失う。
君にお願いしたいのは、手術が終わるまででいいのです。
傍にいて上げてくれませんか?」
「そ、それは、俺もそうしたいけど、じゃあ、一体誰の体を使うと言うんだ?」
ミオが呟くように言った。
「彼らは、内調のスーパーコンピューターに保存してあるゲノムから、恭平君のゲノムと適合する人間を選び、拉致して手術をしようとしている」
レディは言葉を無くした。
「双子でも、ゲノムが全く同一、と言うことは無いのです。
それは恭平君と順平君、兄弟とはいえ、身長も体重も全く違う事からも判るでしょう。
しかし、ゲノム単位で同一の人間がいる確率は、国家規模の情報スケールで考えれば、思うほど低くは無いのです。
内調のコンピューターを調べれば、適合者が現れる確率は、かなり高い」
その人を殺すのか…。
レディは呟いた。
頭が混乱していた。
見知らぬ人間の死と、一緒に育った恭平の死。
同一には考えられない自分がいた。
でも…、それは殺人…。




