17お願い
カブトは変容の壁でダメージを青大将に飛ばし続け、レディは呪いの人形のダメージを飛ばし続けていた。呪いの人形の持つ、妖怪の数だけのダメージは、今では四に増えている。
だが、再生を持つ青大将ならば、これが十のダメージでも、再生することで全てのダメージを無かったことに出来てしまう。
膠着状態だったが、レディは老いぼれ馬を場に出した。
さあ、これでこっちは、好きに魔法も使えるぞ!
レディが薄く笑った時、
「ちょっといいですか?」
青井聡が、いつの間にかミオの横に立ち、囁いた。
廊下で話そう、とゼスチャーする。
ミオは迷った。
今は怪我で戦闘力がダウンしているようだが、カブトは元々、レディを殺そうとして、背後から襲った男なのだ。
レディを一人にするのも気が引けるし、第一、隣の白衣の男が本当に只の医者なのか、ミオに判断する術はない。
「ご相談があるだけです。安心してください」
蒼井は、切れ長の冷酷な目で、ミオを見つめた。
「順平君には聞かせたくないのです。お願いします」
ミオは迷った。
だがレディはゲームに夢中のようだ。
渋々、ミオは頷き、蒼井の後を追った。
廊下をしばらく歩き、蒼井は立ち止まった。
「カブトはもうすぐ死にます」
呟くように言った。
「確かに悪いようには見えるが…」
ミオは言葉を濁した。
時折、苦しそうに身を竦めたり、息が浅くなったりしている。
どうやら本当に怪我を負った様子だが、しかし危篤状態、とは言えないし、死に瀕した怪我人はミオは何度も見てきていた。
カブトが今すぐに死ぬことは無い、と感じる。
蒼井は振り向いて、言った。
「ゲームが終われば、傷をお見せします。
そうすれば納得してもらえると思います」
青井聡は、黒ぶちのプラスチックフレームの眼鏡をかけていた。
蒼井の切れ長の目には、やや不釣り合いに感じる。
「なぜ、我々に傷を見せるんだ。
私たちは何もしてやれないぞ」
「順平に黙って死ぬのは嫌だ、と恭平は言うのです」
「胡散臭い話だな。
最後に一目会いたかった、と言うお話か?
ならば、なぜ地下鉄の駅を破壊する必要がある?
電話一本で終わる話だろう?」
「それでは順平君が恭平の怪我を知ってしまう。
恭平は、戦いたかったのです。
影繰りとしては無理でも、最後に心を無にしてゲームをしたかったのです」
「それで心置きなく死ねる、というのか?
それだけのために、この騒ぎを起こしたのか?」
蒼井は、静かに首を振った。
極秘のお願いがあるのだという。
「恭平、いやカブトが唯一助かる方法があります。
それは適合する臓器を移植することです。
恭平は望んでいないが、私は望んでいる。
それをお話ししたかったのです」
「まさか、レディに臓器を譲れ、と言っているのか?」
「いいえ。
私は喉から手が出るほど欲しいのですが、恭平が納得しない。
彼は兄弟である順平君を愛しています。
ああいう事件を起こしたので、あなたは疑わしいと思うかもしれませんが、双子の兄弟の心は複雑なのです。
兄弟として、同い年の友達として愛しているし、おそらく思慕の感情もある。
そして、死に瀕した今では、自分の未来を順平君に託しているのです」
ミオは、前髪を下ろした姿のまま、目を細め、蒼井を睨んだ。
「では、どうしろと?
末後の水を取れ、とでも言うのか?」
眼鏡の奥で、蒼井聡の目が光った。
「カブトには内緒でお願いしたいのです。
内調の最深部にあるDNAコンピューターへのアクセスに協力してもらいたい」
さすがに、ミオも驚いた。
「馬鹿な!
ひっくり返っても、あそこに侵入など出来ない。
軍事的に制圧しても、あそこの扉は開かないんだぞ!」
「ですが、最近、どんな扉も擦り抜ける能力者が現れたそうですね。
その人がいれば、どんなに硬いセキュリティも素通りできるとか。
お願いします。
別に沢山のデータを取って来ようと思ってはいないのです。
ただ一人、恭平のDNAと適合する人物さえ分かれば、我々はそれ以上、なにも望みません。
私の望みは、恭平の命だけ。
信じて頂けないでしょうか?」
青井聡が涙を流していた。
ミオは言葉に窮した。
これは真実の涙なのか?
判断できず、ミオは、ただ涙を流し嗚咽する蒼井を、凝視していた。




