16突入
デュエルは膠着していた。
レディは、3回のドローで二体のブリキの兵士を引き、一回は、今、使えない魔法カードだった。
一方、カブトは、レディが反射させたダメージを変容の壁で青大将に飛ばし続けていた。
最初は、そのタイミングで愉快なピエロでダメージを撃ったが、今は聖なる泉があるため、攻撃も出来ない。レディとしては、後は必要なカードをドローするのを待つだけなのだが…。
気になるのはカブトのデッキだった。
なるほど、森の魔術師で墓地から魔法を使う、というのは驚いたが、それだけでは勝てない。
水地形にして攻撃に転じる、と言っても、未だ水渡りを持つ妖怪は青大将一体だ。
これでは渡りデッキというにはあまりにも貧弱だった。
どうも、まだ見えていない何かが、カブトのデッキには隠されているような気がした。
レディは、考えながら新たなドローをめくった。
来た!
老いぼれ馬は、自身とタップさせるとともに、老いぼれ馬の持っている全ての機能を停止する、という、それだけでは意味の全くないアーティファクトだ。
だが、それをヨシオドールが装備すれば、全く意味が変わってくる。
ヨシオドールは、好きな時に呪いの人形のスイッチをON、OFF出来るのだ。
よし、一気に勝負を賭ける、足がかりが出来だぞ。
レディは、深く息を吸った。
「総務の岩井って言うのが内通者なのか?」
アクトレスは唸った。
太鼓腹の偉い人と、木田人事部長は、腕組みをしたまま、身を逸らして唸った。
「岩井君は三十年、うちに勤めている篤実な男ですよ。
そんな凶悪犯罪者と交際があるなど、考えられません」
「たのめーるの配達人は、まだ出ていないんですよね。
そろそろ十二時ですから、不自然なのは確かです」
「岩井部長は、組み立ててもらうから時間がかかる、と言ってましたね」
老警備員が答えた。
「岩井は、あたしらに気付いているのかね?」
「オフィスは、席の並びが違うだけの大部屋なので、受付の電話を聞いた可能性はありますね。
ちょっとドタバタしましたから、気づかないとは思えない。
木田人事部長は、ハンカチで汗をぬぐった。
十二月だが、太り気味の体には、暖房が少し暑いらしい。
「動いてくれればいいんですけど。
動かない場合はどうするんですか、もう昼休みになってしまいますが、乗り込みますか?」
幼く見える少年が物騒なことを言いだしたので、木田人事部長と警備員は驚いて誠を見た。
「KCジャパンビルの外には、増援がいるはずだわ。
合流されないうちに手を打つべきだわ」
美鳥の言葉に、アクトレスは頬を掻いた。
誠一人なら、それでもいいのだ。
坊やに戦いを見せておくのは良いことだ。
ただ、美鳥が邪魔だった。
二人の面倒を見ながら戦うとなると、楽ではない。
もし、二人のどちらかが分断されれば、苦戦もありうる。
「ちょっと、こっちで相談しようか」
アクトレスは、通路に二人を連れだした。
「まず能力を確認するよ。
蒼井って奴は、糸状の紐を出す能力だったそうだ。
糸のように細くにも、網にもできたらしい。
まぁ、蜘蛛の糸、ってところだね。
射程が長くて、戦いにくい相手だそうだ。
カブトは、両手から一本づつ、鞭状の影を出す。
レディの振り子ほど破壊力は無いが、狙いは正確だってさ。
また、両手を合わせると火の玉を撃てる。
これはレディぐらいの射程だそうだが、当時の破壊力ではレディに軍配が上がるって話だ。
だが、こりゃあ全く空論だね。
二年前の話だからね。
で、カブトと言う名の由来となっている能力があってね。
それが、地雷的なものだそうだ。
火を、影で覆っちまうんだとさ。
すると、火は酸素を消費して大人しくなる。
だが、急に影の覆いを取ってやると…。
判るね、ドカーンだ。
これが恐ろしい技で、ついたあだ名がカブトだってよ。
気を付けなきゃあならないのは、二人とも、あくまで逃げ出した二年前の情報だって事だ。
技が進化したり、経験値から別の技を間み出す、など色々が考えられる。
逆に、全く進歩していない、方が不思議な話だ。
それから、業者はもう一人いる、ダンサーを相手にするつもりなんだから、影繰りなのは確かだ。
情報の無い影繰りと戦うのは、不気味なもんだよ」
二人とも大人しく聞いていた。
「で、今後の動きだ。
一番良いのは、内通者らしい岩井が連絡を取って、あたしらがいる水上バス方面に逃げてくれることだね。
ここに三人いるし、他に四人、外に待機している。
問題はヘリポート、または地下駐車場に逃げられた場合だ。
上はまだ、誰もいない。
遠巻きに監視している状態だ。
車は、すぐ追跡できるが、いずれにせよダンサーチームの状態次第で、どう対応するのかが全く違ってくる。
一緒に戦えれば楽だろうが、戦闘不能の場合、人質に取られた場合、それに、逆にカブトに篭絡されて敵に回る場合だってゼロじゃない。
その場の、状況判断が大切だし、こっちの命令は無条件で聞いてもらわなくっちゃ団体戦闘はこなせないよ、判ったね」
二人は殊勝に頷いた。
「で、作戦だが、とりあえず、あたしら三人は警備室で状況を見る。
敵が動いてくれれば、それに対応する。
同時に、こっちに五人呼んで、二人はヘリポートにすぐ行けるところに待機させる。
二人は、岩井って奴を調べる。
一人は青山だね。
で、もう一人は連絡係だ。
そっちが片付いて、しかも、まだ敵が動かなかったら、その時は乗り込むよ。
覚悟しときな」
言いながらも、アクトレスは迷っていた。
坊やは自分が付くから良いものの、美鳥をどう配置するか、だ。
美鳥は、決して弱くはない。
ただ、どちらかと言えば暗殺、諜報などに向いた能力で、戦闘ならば補助に徹してくれた方が、アクトレスのような戦い慣れた影繰りにはやりやすい。
だが同じ年のカブトや、面識のある蒼井と戦うとなると、気負って前に出る可能性もあった。
事実、一月前の誠の争奪戦でも、蝶を鎧のように纏って、アクトレスに戦いを挑んできた。
気が強いのだ。
冷静で適切な判断が出来るのが美鳥の優れた資質なのだが、気の強さが、その資質を潰してしまう。
特に今回は、密室での戦いになる。
ここで美鳥が勝手に動くと、フォローの仕様がなくなる。
動ける範囲が限られている分、将棋の盤上で戦うようなち密さが要求されるのだ。
特に相手は、二人とも遠距離攻撃の能力を持っている。
蒼井聡の糸にしろ、カブトの火の玉にしろ、実のところ、避けようがない分、密室で相対する方が嫌な能力だ。
美鳥の蝶も遠距離能力だが、如何せんスピードがない。
この一か月、蝶にスピードを付けられないか訓練を積んではきたが、一度固定した影の能力を変えるのは、中々難しい。
それでも生真面目で頭の良い美鳥の事だから、半年、一年あったら対策はとれるだろう。
だが、アクトレスが教官になってから日も浅く、それほどの成果は出ていなかった。
今の段階で、この子を戦わせるのはちょっと…。
アクトレスは、生真面目に自分を見上げている美鳥を見た。
美鳥は、コクン、と頷いてみせた。
やっぱり、強気の目が出てるよ…。
アクトレスは唸った。




