132掴む
美鳥の蝶が、フロアーから吹き抜けのガス室に広がっていく。
何百、何千の黒い蝶が吹き抜けを舞い、糸に辿り着くと、液体化するように糸を黒い染めながら伝い広がっていく。
小田切誠の目の前には、無数の糸が走っていた。
それは立体型の蜘蛛の巣のように誠のすぐ近くから、ボーダー柄の女の周囲まで、ほとんど数センチ単位で糸が縦横に張り巡らされていた。
「誠、壊すのよ!」
美鳥が叫ぶ。
うわぁぁぁ! 叫びながら誠は、影の手を大きく伸ばした。
が…。
「きゃはは、面白い子供たちだね!
あたしの糸が、見えれば、壊せると思ってるんだね!
じゃ、これでどうだい!」
ボーダー柄の女が、ぴょん、と跳んだ。
その一瞬で、美鳥の蝶の力で黒く染まっていたはずの糸が、一瞬で白く戻った。
誠の影の手は、虚空を泳ぎ、消えた。
「な!
何が起こったんだ!」
誠は叫んだ。
「慌てるな、糸が動いただけの事だ!」
フロアーの奥の壁側で、井口が叫んだ。
「井口さん、大丈夫だったんですね!」
「そう大丈夫じゃねーが、見ることは出来る。
糸は、動いただけだ。
イメージとしてはパズルだと思えばいい。
無数の滑車や支点を動かせる起動部分があって、奴の糸は、美鳥が言うように蜘蛛の巣レベルのあやとりのように一瞬で動くんだ。
だが、美鳥の蝶は、付いたままだ。
よく見てみろ!」
言われてみれば、確かに所々に黒い部分が残ってはいる。
糸は、ただ様々な方位に走っているだけではなく、糸同士が接触しあい、引いたり押したりして複雑に絡んでいるのが見える。
「それなら、蝶で固めるだけよ!」
美鳥が前回に倍するような、大量の蝶を出現させた。
「はは、いつまでもやらせると思うのかい!」
言うと同時に、美鳥が吹き飛んだ。
まずい!
誠は心の中で叫んでいた。
誠は、影を纏うのは得意ではない。
影の体を自分に重ねてはいるが、それをしてさえ、誠の体力は、まぁ人並ほどだ。
敵の攻撃が見えていれば透過で攻撃を避けられるのだが、あの見えない攻撃は誠には避けられない。
一気に自分が発汗したのが判るほど追い込まれた誠だが、すぐに気が付いた。
蝶は消えていない。
美鳥さんは、何とか攻撃をかわしたらしかった。
レディさんなら直接ボーダー柄の女を狙うだろう。
だが僕の影の手では、簡単に糸で避けられてしまう。
だが…。
糸を掴むことは、出来る。
誠は影の手を再び伸ばし、そして爆発させた。
遠くへ飛ぶとき、誠は、影の手を爆発させることで射程を伸ばしていたが、爆発は、別に射程ぎりぎりでなければできない訳ではない。
ただ、意味が無いからやらないだけだ。
だが、爆発させた影の手ならば、ボーダー柄の女でなくとも、この糸を掴んで誠の体を運ぶことができる。
接近戦を挑む!
誠は、ボーダー柄の女に接近するため、糸を掴んで、フロアーから浮き上がった。
「誠!
危険よ!」
美鳥が叫んだ!
誠は足からも影の手を出し、複数の糸を掴んで糸のジャングルジムをよじ登っていく。
だが誠には、どうしても蜘蛛女を倒さなければならない秘密の理由が存在した。
こいつは、僕が殺らないといけない奴なんだ!
誠は、フロアーから飛び出し、女の方へと進んだ。




