130ボーダー柄の女
「誠、落としなさい!」
美鳥の鋭い叫びに、あ、と慌てて、小田切誠はボーダーの女を透過した。
女は、軽く数10センチ落ちたが、背中に落下防止の糸でもついていたのかブランとぶら下がり、横に飛んだ。
違う足場に軽々と取り付くと、ハハハ、と笑った。
「そうか、君が透過の少年か。
なかなか面白い。
だが、私には通用しないな」
誠は、女を追うように新しい足場を透過した。
女は、サーカスの軽業師のようにヒョイと跳び、新たな足場に移った。
何度やっても同じだった。
「おかしい。
あの糸、どーなっているんだ?」
誠は唸るが、井口が、
「あれが、シマシマの影能力だ。
常に自由に糸を張れるらしい」
鳥の視力で,井口は女の影の全容を目視できるらしかった。
「別にムキになるなることはないだろ。
あんなところで飛び跳ねられていても、痛くも痒くも無い」
女はキャアと笑って、
「鳥の少年!
良いこと言うじゃないか!」
言葉と共に、井口は吹き飛んだ。
5メートルほど横に飛び、側壁に体を打ちつける。
井口のトンビが、消えた。
「井口さん!」
誠は叫ぶが、
「目を切らない!」
美鳥は叫んだ。
誠は慌ててボーダー柄の女に視線を戻した。
「美鳥さん、今の攻撃は…?」
「はっきりとは判らないわ。
だからこそ、視力の良い井口君を最初に潰したんでしょう。
糸を出す能力が彼女の胆のようだから、その類の力なんでしょうけど、中距離でレディの振り子並みの威力があるようね…。
こうなると…」
美鳥は再度、蝶を多量に作り上げた。
大量の蝶で、糸を感知する作戦のようだ。
見えない糸!
誠は唸っていた。
それに、あの小さな虫…。
虫使いは、どこか遠くで誠達を眺めているのだろう。
この中距離、長距離のペア攻撃は、この飛行船の内部と言う密室空間の中では圧倒的に有利だった。
普通、レディの分銅に襲われた影繰りは、まず距離を取って直撃を避けようとする。
だが硬質飛行船は全長およそ100メートル。
中央部に立てば、そのほぼ全体が射程距離になる。
虫の事は、後で考えるしかない…。
何よりも、井口を吹き飛ばした見えない攻撃の正体を見つける必要があった。
見えないという事は、美鳥さんの言うように、たぶん糸の攻撃なのだろう。
だが、糸は細くて見えない反面、レディの分銅のような質量は無いはずだ。
影能力は影繰りのイメージの力なので、常に物理法則があてはめられるわけではないが、しかし、さすがに井口の吹き飛び方からして、1本や2本の糸の力ではないはずだ。
だが普通は、細い絹糸も絡めて編めば布と言う、可視出来る物質になるはずだった。
だから沢山の糸を繋げてロープを作った、というような物ではないはず、と誠は思う。
確かに、出雲大社の大しめ縄のように巨大にすれば、藁だって何トンと言う質量を持つにいたる。
だが、それならば、誠にも見えるはず、なのだ。
「誠、走るわよ!」
美鳥は誠の腕を引いた。
「ああ、すいません!」
足を止めていれば、ボーダー柄の女の餌食になってしまう。
音を立てることを恐れず、誠達は走った。
だが…。
誠の手を引いて走っていた美鳥が、あっ、と叫んで転倒した。
「美鳥さん!」
誠は叫んだ。
「む、虫なのか!」
誠は、影の体を自分に重ねているので、瞬間、素早く立ち止まりながら、美鳥に影の手を伸ばした。
「少年!
君は身体強化系の影も持っているようだな!」
ボーダー柄の女に言われて、誠は飛び上がった。
自分が影の体を肉体に重ねているのは、絶対の秘密だった。
運動音痴なのがバレてしまう!
「煩い!」
ムキになった誠は、ボーダー柄の女に向かって、影の手を伸ばした。
影の手は7人を引いて壁を上がったりは出来るが、それほど強烈なパンチとしての破壊力はない。
誠自身が、相手を殴り飛ばそう、などとイメージするタイプの人間ではないためらしい。
だが、掴んで引っ張る、などの力はかなり強い。
だが…。
「ははは、なんだこの弱い攻撃は!」
女の周りに、糸の壁が現れていた。
誠の影の手は、爆発前に遮られてしまった。
「な、なんだ…。
一瞬で、糸が色々に変化するぞ…」
「誠、それがあの女の能力なのよ…」
美鳥は、用心深く立ち上がった。
「あたしも、糸で足を引っかけられたわ…」
「ど…、どういうことですか?」
まだ、誠は話が理解できなかった。
「彼女の能力は、一定範囲の場所に、自由に好きに糸を張れるのよ。
それは一瞬で、全く別の形に変貌することもできるの。
最初から、それが見えていた井口君は、そう話していたわ。
常に自由に糸を張れる、ってね。
糸を、盾にも剣にも、状況に応じて瞬時に使い分けられるのが、彼女の能力なのよ」




