129空中
今、判っているのは僕の足が動かなくなったことだけだ、と誠は考えた。
あの、体長2、3ミリの黒いテントウムシに貼り付かれると、その部分が動かなくなるらしい。
誠は、自分の脈拍をもう一度、計ってみた。
前より早い。
つまり、一見するとあのテントウムシは、身体を動かなくさせる能力のようではあるが、誠の脈もコントロールしていた。
それが動かなくさせる事の副産物なら、それでいいが…。
少し嫌な予感がする。
もし、脈拍をコントロールできるのだとしたら、相手の脈を異常に早くして混乱させたり、遅くして反応を遅らせたりできるのであれば、単に一部分を動かなくさせる能力よりも、ずっと厄介な気がする。
誠は、そう美鳥たちに語った。
「脈拍のコントロールか…。
確かにそんな事をされたら戦いずらいが、それ単独なら、三人で連携して戦えば、それほどの脅威じゃないんじゃないか?」
井口は言った。
「それ単独なら、確かにそうね。
この敵、別の影繰りとペアを組まれたら、相当厄介よ」
美鳥は唸る。
確かにそうだ!
誠は驚いた。
近接戦闘の達人みたいな影繰りとペアだったら、たぶんミオさんでも敵わないだろう。
避けたつもりのパンチを、体が動かなくなって当たり、しかも脈拍をコントロールされて1分でバテたりしたら、戦いようがない。
「なかなか明晰な戦闘感覚を持っているようじゃないか、少女」
誠達は、声のする方角に、無意識のうちに振り返っていた。
それは、吹き抜け、ガスを入れる幾つもの巨大な筒が並ぶ部分の手前、10メートルほどの何もない場所だった。
天井の構造柱から床の構造柱、軽金属でできた軽くて丈夫な柱の連なりの間の、うっすらと外の光りが強化プラスチックから透けて見える非現実的な360度の光に照らされた硬質飛行船の中央部、誠たちの正面だった。
女が立っている。
白と黒のボーダー柄の長袖シャツと、ボーダー柄のスパッツを履いた、短髪の女だ。
金髪を短く刈った頭に、耳に輝くピアスが、強い白の光りを放っていた。
女は、空中に浮かんでいた。
「と…、飛んでる?」
誠は呟くが、井口が否定する。
「違う!
糸だ、細い糸の上に立っているんだ!」
あっ、と誠は叫んだ。
それは、目のピントの調節だけの問題だった。
確かに、上からも下からもぼんやりと照らされた空間で、幾つもの糸が、時折、光りの筋となって見えていた。
「ほほう、少年は目が良いな」
女は、決して筋肉の多いタイプではない。
だが身長と手足は、長い。
むしろ針金人形のようにほっそりとしていたが、自身に満ち溢れた笑みを浮かべ、空中から誠達を眺めていた。




