126突入
真っ青に澄み渡った冬の空に、地上300メートルを飛行する真四角の飛行船が接近してくる。
誠は、影の手を伸ばしながら、その純白のボディの輝きを凝視した。
「影繰りは、殺すほど強くなるんですか?」
誠は聞いたことのない話しだった。
「ファンタジーよ。
そうだったら、最前線に立つのは皆、お爺ちゃんお婆ちゃんになってしまうわ」
美鳥の言葉に、高屋が、
「ま、強い奴が勝つのやから、普通に淘汰されてる、とも思うんやけど、でも異様に強くなる子もおるんやで。
何か不思議な力、働いてる、とはうちも思わんけどな」
あはは、と小金井は笑った。
「いや、確かに何かあると思いますよ。
僕も過去に五人ほど影繰りを殺しましたが…。
四人目ぐらいで、前線に立たしてくれなくなりましたし…」
「能力が上がったんですか?」
誠が聞くと、
「僕、最初はCクラスの能力者だったんです。
警察犬と変わらないけど、人語が話せる分は役に立つ、ぐらいの。
それから色々仕事をして、七年前に軍事施設で警備をしていると、微かに爆薬の臭いのする少年を見つけたんです。
それが影繰りでして、殺し合いになりました。
運良く、相手を仕留めて、数か月でBクラスの術者になっていました。
僕の能力は、別に戦闘に直接は関連するものではないですからね。
僕は、何かがある、と思っています」
「だったら、もっとこう奨励したりするんじゃないですかね?」
井口が言う。
「おそらく、明言できるほど確かな根拠も、法則も見いだせないんだ。
ただ、強くなった奴はいるよ、井口君。
このレディのようにね。
ただ、そのように教えてしまわない方が良い、と僕は思うんだ。
殺す、なんて事を、ね…」
ミオは語った。
「まー、ここまで来ちまったら、井口は、強くなるはず、ぐらいに思った方が良いんじゃねーの。
多分、あそこにはやばい奴しかいねぇぜ」
レディは井口の肩を叩いた。
そうだよな…。
井口はぼんやりと四角い飛行船を見上げた。
「井口君、何で来るって言っちゃったの?
戦闘訓練も充分とは言えないでしょ」
美鳥の言葉は厳しい。
はは…、と井口は笑った。
「俺、泳げないんだよ…」
えっ、と6人を抱えた誠が驚いた。
「あそこって、必ず泳がされるじゃないんですか?」
誠は、25メートルぎりぎり泳げるほどの泳力しかなかったが、毎日泳がされ、今は50メートルを何本も泳げるようになっていた。
「コーチによるよな。
俺は、どっちかと言うと格闘をメインにしているし…」
レディが言った。
「あなた、はっきり言って運動不足だったわよ。
だから基礎体力を上げるために沢山泳がされてるのよ」
美鳥の言葉に、ミオは、
「泳ぎでつく筋肉と格闘でつく筋肉は違う。
よく、柔らかい筋肉になる、と言うな。
レディには、だから固い筋肉をつけさせているが、アクトレスさんは誠君には接近戦より持久力の付く筋肉をつけさせようとしているんだろう。
君に近づいたら、相手には死しかないのだからな」
誠の伸ばした影の手が、高層ビルの屋上を捉えた。
一瞬後に、誠達は高さ220メートルのビルの上に立ち、硬質飛行船を見た。
地上300メートルを飛ぶ飛行船から、何百メートルも距離はない。
「突入します!」
誠は、唸るように言った。




