開頭
「済まないな、思うより時間を使ってしまった」
ミオは、床に倒れて白目を剥いたカブトを見下ろしながら、今もナイトに卍固めをかけているレディに、柔らかく語った。
レディは、床で、卍固めというよりは、ナイトを鍋敷きのように平ったく絡めていた。
三本分の鎖が絡まるようにナイトを固めていて、3つの分銅、が、鎖を巻き付けてナイトを閉めていく。
今、この瞬間にもナイトはギリギリと、締め付けられていた。
「遅くなりました!」
誠が、美鳥や高屋、井口を運んで2階に戻ってきた。
井口が頭から血を被っている。
相当の戦いをして来た事が窺われた。
「さすがね、ダンサーチームは!」
銃使いは、壁に刺さるように倒れていて、顎か鼻を砕いたのか、血糊が壁に飛び散っていた。
カブトは白目で床に倒れていて、あの圧倒的なブルドーザーのような甲冑男ナイトは、レディによって鎖で巻き込まれて身動きが取れない。
「誠、ちょっとこいつを殺すの、手伝ってくれよ。
甲冑が分厚くて、どうにもならないんだ」
レデイが分銅をギリギリ絞りながら言う。
「判りました…」
とにかく…、
と誠は考える。
とにかく今は、事件を収めないと、後の事は何も考えられない。
失敗したら僕の住む街が無くなってしまうんだ…。
微かに頷き、誠はナイトの甲冑を透過した。
瞬間。
ボキリ、と幾つかの骨が同時に砕ける音がして、バン、と頭蓋骨が割れる音がした。
レディの分銅は、既に血飛沫を上げるミンチを、更に磨り潰している最中だった。
吐くか、と美鳥は誠を見ていたが、青ざめながらもミンチを凝視している。
「そうだ…」
誠は呟き、
「カブトの強化服も接収しましょう」
言うと、影の手で服を掴みながら、強化服を透過した。
うわっ!
と叫んだのは井口だった。
どさ、と誠は膝から倒れて、
「あの人、やっぱりキ〇ガイだったんだ…」
うわぁ!
とレディは叫んだ。
「誠、戻してくれよ、早く! 俺の恭平が死んじまう!」
ヘッドギアを剥ぎ取ると、カブトの脳みそは、完全に剥き出しであり、無数の電極が脳に突き刺さっていた。
「あの硬さの正体は、これだったのか…」
ミオも呟く。
脳神経医学の黎明期、人間はサルの脳を開頭いて、同じような実験をした。
生きたサルが、脳のどこの部分を使って行動をするのか解明するためだ。
だが…。
人間にそれをするとは…。
心ならずも、ミオは怒りに震えていた。
「心配ないわ」
天井のスピーカーから吉岡医師の声が聞こえた。
「すぐに医療チームをそこに向かわせる。
動かしちゃだめよ」
「吉岡先生、早くしてくれ、恭平が死んでしまう!」
レディはすすり泣いていた。
ミオはレディの肩を抱いた。
「ま…、待ってください。
マッドドクターは、どうなったんですか?」
永田の声が、シュボ、とタバコに火をつける音と共にスピーカーから流れてきた。
「あの変態は、誠が落とした地下四階の密室から出ようと、今もあがいているよ。
我々は、遠隔操作で、密室の酸素を抜く操作を始めている。
このまま、あの爺は窒息してもらう」
冷静な言葉の中にも、深い怒りが漂っている。
「どけどそれじゃあ、外の飛行船は原爆を投下するんじゃないのか?」
井口が呟くように言う。
「まぁな。
だから君らの新しい任務は、なんとかして飛行船に乗り移り、中の糞野郎を一人残さずブチ殺すことだ。
できるな?」
誠達は視線を交わした。
「はい、出来ます!」
誠は低く答えた。
その時非常扉が開き、吉岡里穂医師と白衣の男性4人が到着した。
「レディ、お医者様にカブトは任せよう。
誠君、我々を外に運んでくれ」
真っ青なレディを見ながら、誠は戸惑った。
だが、レディは頷いた。
「ああ。
糞野郎は、皆、俺が磨り潰してやるよ…」




