122強化服
壁にめりこむ程、殴り飛ばされたカブトだが、さっきとは違い、ぶつかったバウンドを利用するように素早く立ち上がった。
「あいにくだね。
その程度のパンチでは、僕の脳は揺れないんだよ」
口角を上げる。
固い!
さすがにミオも唸った。
会心の一撃だったし、牛でも熊でも頭蓋骨ごと叩き割れるパワーはあるつもりだ。
纏う影も強いのだろうが、あのヘッドギアにも相当の防御力がありそうだった。
カブトは、ゆっくりと歩みだす…、と見えた瞬間、テレポートのようにミオの横に立っていた。
「圧倒的だろ?」
呟きながら、ミオの顔面にジャブを放つ。
それは棒立ちのままの、手打ちのようなジャブだったが…。
ミオのガードを、一瞬で弾き飛ばした。
棒立ちのままのカブトのジャブは、しかし凄い回転力でミオが避ける間もなく次弾がミオの顔面に撃ち込まれた。
ぐしゃ! と激しい音がぐしゃ室内に響いた。
「順平!」
甲冑男に卍固めをかけたまま、レディの分銅がミオの顔を守っていた。
「馬鹿め。
分銅がいつまでも3つだと思うなよ」
ち、とカブトが舌打ちした瞬間、ミオは影を滑っていた。
最初の一撃は、確かにカブトに脳震盪を起こさせていたはずだ。
だが、横からの攻撃では、カブトは踊るように壁にぶつかり、弾んで立ち上がった。
つまり、あれだな。
ミオは思う。
野球の、デッドボール。
ピッチャーの球がバッターの体に当たってしまう反則だが、球が大きく弾んだ場合、バッターが受けるダメージは少ないという。
だが、弾まずに、ボトリ、とバッターの近くで止まった場合、深刻な怪我になる、事が多い。
つまりは、跳弾、弾けた球は、まだスピードと言うエネルギーを多く残しているため、同じデットボールでもバッターが受けたエネルギーはボールに残ったエレルギー分は少ないわけだ。
カブトが壁で弾んだ分、カブト本人が受けたダメージは少なかった、と見られる。
不意打ちに近いパンチであることは2発とも同じなので、たぶん問題は受けた角度ではないのか、とミオは考えた。
あの火の玉だ。
カブトは、自分の左右のポイントに火の玉を浮かべて防御していた。
あれは、意味なく浮かばせたものではない。
おそらく、ヘッドギアの能力と合わせて、万全の防御を期するために浮かばせた火の玉なのだ。
しかし厄介なのは、仮に火の玉を破壊し、そこから渾身のパンチを撃ったとしても、それは不意打ちのパンチにはならないことだ。
防御する、または防御できないにしても来ると判っていてもらうパンチは、KOパンチにはなりにくい。
体の筋肉が、力を入れた状態でパンチを受け止めるためだ。
体の筋肉に力が入れば、自ずと纏った影も厚くなる。
それでは強化服を着たカブトは倒せない…。
ミオはカブトの側面に回り込み、素早いジャブを放った。
カブトは、片手でそれを受け止める。
パワーだけではなく、反射神経もアップしているらしい。
ただし、棒立ちなのはさっきから変わっていない。
奴を倒すことは出来る。
ミオは考えていた。
だが、そのためには奴から攻撃をさせなければならない。
立って見ていられたら、なるほど攻撃は受け止めやすい。
だが、同じ攻撃でも、自分が動いている中でなら、そうそう容易く避けることは出来ないのだ。
だがカブトは、余裕をもって薄笑いを浮かべながらミオを見ていた。
これでは駄目だ。
ミオは影を滑って、カブトの脇腹にパンチを入れた。
重いフック気味のパンチだが、カブトは無反応だ。
だが、目では追い切れなかったのか、後追いで裏拳が飛んできた。
ミオはそれをギリギリで交わして、カブトの股間にパンチを放った。
むろんボクシングではローブローと言う反則だが、実戦では有効な手段であり、ミオも意図して打つ技術は知っていた。
カブトは、微かに体を折り曲げた。
強化服を着ていると言っても、無感覚という訳ではないらしい。
警戒したカブトは、一歩、ミオから距離を取った。
瞬間、ミオは地面低くを滑り、カブトの斜め前から顎を狙う。
カブトが浮かべた火の玉が、ばん、とミオの体を弾いた。
ミオは、そのまま立ち上がるようにパンチを繰り出した。
カブトの左斜めから体を伸び上げらせて、同時に右手は肩から回すように大きく弧を描く。
ブーメランフックと呼ばれる技だ。
ボクシングと言うよりは、総合格闘術で使われる技だったが、パンチ技なら、ほぼ世界中の技をミオは身につけている。
戦う相手が世界中の猛者なのだから、当然の事だった。
大きく振り回した右腕が、カブトの左こめかみに突き刺さった。
ずるっ、と、跳ねることなく、カブトは膝から崩れ堕ちた。




