121白い飛行船
「ほう、あんなものがタンカーから飛び上がったのかい」
アクトレスは見事にビルドアップされた二の腕をウエットスーツから出して、アクトレスの乗る豪華客船ムーンライト号に接近してくる真四角の金属的な物体を眺めていた。
硬質飛行船。
それは、その昔、大一時世界大戦の当時、ロンドンを空襲爆撃した武装飛行船ツェッペリンなどに遡る。
アルミなど軽いが固い物質で外周を覆った飛行船で、ある程度の攻撃に耐えながら、通常飛行機よりも大量の積載物を積み込めるのがパワーポイントだ。
ただし、速度は圧倒的に飛行機が勝る。
ボーイング787ならば通常時速1000キロメートルほどの速度で飛べるが、硬質飛行船では気象条件次第で時速500キロを出せるかどうか。
カウンタックと速度比べをする程度の早さだろう。
しかし純白の四角い機体を光らせたこの飛行船は、
「当方には原子爆弾が積載されている。
日本政府がこちらの要求に従わない場合、東京上空でこれを爆破させることを厭わない」
とアナウンスをしながら、ゆっくりとカローラのような速度でムーンライト号に近づいていた。
「どうやらアメリカ船籍を偽装した350メートルの超大型コンテナ船の、コンテナの内側に収納されていたようなんです」
外側をコンテナの壁が覆った内側に硬質飛行船を収納し、上には精巧に印刷されたコンテナの絵が描かれた布を張っていたらしい。
全長80メートル、幅50メートルの大型硬質飛行船が、そのコンテナの中にすっぽりと入っていたのだ。
飛行船であればガスを注入すれば垂直に上昇できるし、東京の真上では、さすがに自衛隊も手が出せない。
「チ、台風でも来てくれれば、あんな木っ端、吹き飛ばせるのにねぇ」
アクトレスは毒づいた。
硬質飛行船は現代でもいくつか作られたが、とにかく強風に弱い。
地面に係留しても係留ポイントを支点に振り子運動をしてしまうので、地面に叩き作られ、大破する場合が多い。
ただし、この日は朝から快晴で、上着はいらないようなポカポカ陽気だった。
川での作業も苦にならないと、さっきまでは喜んでいたアクトレスたちだが、こうなると天候を恨むよりほかはなかった。
レディは甲冑男に卍固めをかけていて動けない。
そしてカブトは、強化服に守られて、ニタニタと笑いながらミオに近づいてきていた。
口から、ぽっ、ぽっ、と小さな炎を吐き出していく。
この炎、破壊力はそれほどではないが、ミオのパンチを弾くぐらいの力は十分に持っていた。
だが本当に恐るべきは、パンチでコンクリートに穴をあけて地下核シャルターの壁も突き破っていしまうマッドドクターの発明した強化服だった。
いくら近接戦闘用の影を纏っているとはいえ、あのパワーは尋常ではない。
まともに当たれば、ミオも無事では済まないだろう。
僕のテクニックが試されるって、訳だな…。
ニィ、とミオは笑った。
ド素人のパンチをもらうものかどうか、試してみようじゃないか!
ミオは体を丸めるようにファイディングポーズを作り、床を軽快にステップを踏み始めた。
ボクシングが空手などの格闘技と一番違うのは、このステップワークだ。
べた足で踏ん張って力を出すのではない。
跳ねながら体重移動で力あるパンチを放っていく。
その分、攻撃とディフェンスは一体と化し、かのモハメッドアリならば、蝶の様に舞い蜂のように刺す、と言われた華麗な技術を誇った。
カブトが、赤い蛍光色のスニーカーを走らせ、コンパクトな回し蹴りを放った。
ミオがボクシングなら、キックの射程で有利に立とう、という考えだろう。
確かにパンチなら相手の懐に入らなければ強いパンチを撃てないが、キックならその数倍の射程距離で敵を叩ける。
ミオは、笑った。
素人の考えそうなことだ。
蹴りと言うのは、そうそう正確には目標に当たらない。
手を使う野球ならば、球が目標から逸れることの方がミスと呼ばれるが、サッカーでコーナーポストを揺らすことは成功と称えられる。
足の操作は、どれだけ鍛えようが手による精密な操作の動きに等しくはならないのだ。
ミオには、蹴りを放つカブトの隙が幾つも見えた。
片足で立つ間、人間は体を移動できない。
ミオは蹴りの外側を回って、相手の脇腹を狙っても、逆に蹴りの内側に入ってもよかった。
蹴りの内側は、ミオの体も相手の足に当たってしまうが、爪先で最大威力を発揮する蹴りを太ももで受けても、然したるダメージを負うものではない。
逆に、そこから相手の内懐と言う絶好のボジションを陣取り、顎や側頭部の急所にパンチが叩き込めた。
だが…。
そこにはカブトの吐いた火が浮かんでいた。
なかなか、抜け目のない…。
ミオは思うが…。
ミオは、花弁の内側を滑っていた。
カブトの体重を支える足の側、真横に滑ると、渾身のストレートをカブトの左頬に突き刺した。
これは影の勝負なんでね…。
カブトは、再び壁まで吹き飛んだ。




