120リセットボタン
ミオは、甲冑男の頭の辺りを抱えると、自分の腰に乗せて、投げ落とした。
ミオの素早い動きがあってこそのスピードに乗った柔道技で、巨大な相手を見事に投げ落とした。
そこでレディが甲冑男の全身に鎖を絡ませる。
「よし、卍固めだ!」
レディは叫んだ。
卍固めとは、大昔のプロレスの技の名前だが、レディが開発した技は敵の体にレディの鎖を、手足を広げさせた状態で固めてしまう技だった。
防御の堅い敵を卍固めにして、ミオが剥き出しの腹にフィニッシュブローを撃ち込む、等もできるが、この場合レディの力で相手を攻める事となる。
レディの鎖が燃え始めた。
通常、レディは分銅を相手にぶつけ、爆発と火炎で破壊の限りを尽くすが、元々火炎使いのレディは、分銅以外の場所でも発火できるし、事によれば、練習次第ではカブトのような小さい炎を出すことも可能かもしれない。
カブトが感知不能の小さい地雷を作ることに数年間を費やしたなら、レディは振り子の色々な操作と技の開発に取り組んでいた。
振り子を縛る鎖の利用もその一つで、鍋敷きマットのように相手を平らに伸ばしてしまい、その上で鎖を発火発熱させ蒸し焼きにする。
すぐに甲冑男は、目玉焼きが出来そうなほどに熱せられた。
甲冑男が、もぞり、と蠢く。
この甲冑、熱へも態勢があるようだ。
ミオは冷静に敵を観察していた。
通常、焦熱地獄の拷問のようになるはずなのだが、男にさほどのダメージを加えているとは思えない。
「へへへ、そいつに何をしても無駄だぜ」
落ちたはずのカブトが、立ち上がってきた。
「ナイトの甲冑はどんな物質攻撃も通さない。
中の本体は最高級の寝具に包まれているような心地良さだそうだ。
いくら周囲が火の海だろうが、或いは水の中だろうが、呼吸すら妨げられない無敵の能力なんだ」
ミオはカブトの前に立ったが、さすがに強化服の防御力の高さに辟易していた。
無事これ名馬、か。
確かに防御力が高い相手は、思う以上にやりにくいな…。
「館内にいる全員に通告する!」
突然、館内放送が始まった。
「どうやら米国籍のコンテナ船と思われていた船から、東京湾上で硬質飛行船が浮上したらしい。
大きさ、おそよ100メートル。
またしても「原子爆弾を積んでおり、いつでも爆破可能」と搭乗員が東京上空300メートルで大音量で威嚇しながら、現在、墨田川沿岸居住地帯をムーンライト号に向かって接近中らしい」
はっ? と瞬間、呆然としたミオとレディだが、カブトは意外なほど高い声で笑い始めた。
「ドクターが最終手段に打って出たぜ!
あれには、本物の原爆が乗っている。
小型で、威力はほぼ広島、長崎に投下したものとほぼ同じ、つまり、とても小さな爆弾だが、東京は木っ端みじんだ。
大人しく降伏し、全てのDNA情報を提供し、ムーンライト号を返さないなら、全部をぶっ壊す、ってことだ」
地下7階の設備通路で、同じ放送を誠達も聞いていた。
「なるほど…」
誠が呟く。
「なるほどって、何よ!」
やや切れ美味に美鳥が聴いた。
「つまり全てを手に入れるのか、そうでないなら最新の電磁波爆弾ごと東京を灰燼にしてしまおう、という、いわばカードゲームにおけるリセットボタンですね」
「リセットボタン?」
美鳥の問いには、井口が答えた。
「要はゲームで失敗してどうにもならないときにさ、もったいないけど最終セーブポイント以降のデータを全部デリートしよう、ってことさ」
「あのマッドドクターは殺しても良い訳?」
「そのドクターは、今、核シェルターの中で戦闘中ですから」
誠が教える。
「じゃあ、何が何でも東京は破壊する、言うんかい?」
高屋も不安そうに空を見上げた。
誠も同じく上を見上げて、
「このままの条件では。
だけど、もしかすると…」
「何よ、はっきり言いなさい!」
美鳥の言葉に、誠は、
「マッドドクターを無力化し、核シェルターから引きずり出せさえすれば、敵も少し、迷うかもしれませんね」
井岡はせっせと体にかかった生臭い血を拭き取りながら、
「しかし、あの催眠術師をどうやって捕まえる?」
「まずミオさんたちと合流し、考えることにしましょう。
遅くなれば、新手の影繰りも出てくるかもしれない。
僕たちが敵が考えるより早ければ、主導権を掴めるかもしれません」




