12大技
人形町駅のホームの片隅に美鳥を導くと、誠は美鳥と手を繋いだ。
天井から影の手が伸びてきて、誠が掴むと、ぐい、と天井に引き上げた。そのまま、美鳥と誠は人形町駅の出入り口に立っていた。
「一秒もかからず登れるのね」
誠の成長は、美鳥も驚くほどだ。
それまで影繰りの修業もしていないのに、誠は自由な発想で影繰りとして己の技を高めている。
基礎的な体力や技などに、まだまだ不安はあるが、ハマれば面白い新人、の枠は、そろそろ超えていると考えてもいいのではないか、と美鳥は思った。
ちょうど内調のワゴン車が目の前の道路に四百CCの美鳥のバイクを置いている所だった。
「誠、メットをつけて」
美鳥が緑色のオートバイを、慣れた手つきで操作した。
「前から思っていたんですけど、緑色のバイクって珍しいですよね」
「川崎カラーと言うのよ。
緑でないカワサキバイクは偽物なのよ」
美鳥はうんちくを述べた。
「なんて言うんですか?」
「NINJA400R」
誠は本部にあったものだろう、黒のフルフェイスを被る。
美鳥は、バイクとお揃いの川崎カラーのヘルメットだ。
体にぴったりした黒の革の上着はバイク専用のもので、パンツは動きやすさを考えてジーンズを、しかし黒で選んでいた。
その時、爆音を響かせて、黒のハーレーダビットソンが美鳥のバイクの横に停まった。
「おう、坊や。
襲われたって? 出世したなぁ」
以前は自分が襲ったにもかかわらず、アクトレスは笑った。
「敵は本部のスーパーコンピューターにアクセスする気なんです。
だから僕の力が、必要なんですよ」
「んー、だから、あたしが護ってやるんだろ?」
「ただ、どちらにせよ、ダンサーチームを手に入れて、水上バスを占拠したら、僕を要求するはずです」
ふーん、とアクトレスは暑かったのか、フルフェイスのヘルメットを取り、髪をばさり、と広げた。
「人質を取るなら、直接、DNAを聞き出すことも出来るんじゃないか?」
「あれ?」
誠は考え込んだ。
「そうですよね、じゃあ何で、僕を襲ったんでしょう?」
「別の目的があった?」
美鳥が首を傾げる。
「もしかしたら、遅延行為ってやつですかね?」
誠の言葉に、アクトレスが、なんだそりゃ? と聞いた。
「ゲームで、わざと相手の動きを遅らせる作戦です。
そうして自分の手札を整えたり、相手のキーカードを使えなくさせて自分のペースを作るわけです。
パーミッションデッキってジャンルですね」
「遅くなると、何かいいことがあるのか? 自分だって動きづらくなるだろう」
「自分の手札を整える、つまり場をひっくり返すぐらいの大技を使うため、そのカードを引くまで待つ訳です。
カードが揃ったら、誰れにも、どうにもできないような」
「なんだい? その大技って?」
「さぁ、今のところ見当もつきませんが…」
「まぁ、くっちゃべっていても仕方がない。
あたしたちは水上バスって方を、何とかするんだよ! 乗りな、坊や」
本当は美鳥の後ろに乗るのを楽しみにしていたのだが、誠は大人しくアクトレスの後ろに乗った。
そっちの方が大きいし、美鳥は免許取り立てだったので、無難な選択だった。
まぁ、何にしろ…。
誠は心の中で呟いた。
もぅ絶対に、チンカスなんて無いんだから!




