118趨勢
レディの分銅の一つが、槍と接触した。
分銅は何かに接触すると爆発し、巨大な炎に変化する。
だが、もちろんそれは影能力であり、レディが任意に操れる動作だ。
ここでは、分銅は槍を防ぐ盾の役目をしていた。
ナイトの槍が分銅に当たって止まる。
が、ナイトの腕力はコンクリートを砕くほどだ。
ぐい、と空中に浮いた分銅を押していく。
そのナイトの顔面に、第二の分銅がぶつかった。
レディの分銅自体、螺旋分銅でなら内調の床を貫通させたほどの破壊力がある。
がん、と分銅はナイトを一瞬、揺らしたが、ナイトは片手で払いのけるように分銅をいなし、前進を再開した。
レディの顔に、微かな狼狽の色が浮かぶが、しかしナイトの頭上を第三の分銅が垂直落下で落ちてきていた。
頭頂部。
それは人体で一番硬い骨で守られている箇所である。
だが人は太古より、鉄兜で守っている箇所でもある。
現代の兵士は、鎧も小手も脱ぎ捨てているが、相変わらず頭には鉄兜を被り続けている。
頭頂部は、人の急所の一つなのだ。
特に脳は、体液の水の中に浮かんで有るため、ここに衝撃を受けることは大きなダメージを生み出す。
脳震盪と言われるものだ。
頭の中で、脳髄が揺れてしまうのだ。
レディの三連撃は、無意味に放たれたものではなかった。
間髪を入れずナイトの頭頂部を分銅が襲う。
だが…。
ポン。
気の抜けたような爆発音と共に、分銅は横に反れてしまう。
レディは、微かに舌打ちした。
カブトの極小の地雷だ。
読まれていたか…。
思うが、しかしレデイは薄く笑った。
反れた分銅が、地面に当たり、まるでバスケットボールのように横に跳ねた。
ナイトが、槍で、槍先の分銅をずい、と押すが、今度は分銅は動かない。
ぬ、とナイトは己の足を見た。
腕力と言葉にはするが、それは最終的に腕の力として発揮されるだけの事で、常に全身の力である。
だがナイトの両足には…。
レディの分銅が二つ、絡みついていた。
「ハッハ!
俺の攻撃をたいていの奴は、爆発する分銅の力、だと思っているがな。
鎖っていうのも馬鹿には出来ないものなんだぜ。
アナコンダなら、巻き付くだけで雄牛も殺す。
さて、あんたの甲冑は持つのかな?」
ナイトの動きは、完全に止まっていた。
「いやー、なかなかやるね兄さん」
ナイトの背後から、カブトが出てきた。
「止めろ。
兄さんなんて、嘘くさい事言うな、恭平!」
レディは声を殺すが…。
「ハハハ、まさか、ナイトをあんたがこんな風に止めるとは思わなかったよ。
だけどね、それじゃあただの同士討ちだ。
さて、僕は順平のどこを攻めようかな…」
カブトは自分の頭の周りに飛ばしていた小さな炎の輪を、大きく広げた。
黒づくめの服装に、赤いスニーカー。
レディによく似た美貌をマッドドクターの開発した奇妙なヘッドギアが覆っていたが、こうして微笑むカブトは、怪しい魅力を漂わせていた。
そのカブトの周りを、蝋燭の火のような、小さな炎が、何十と輪になって回っている。
ギシッ、とレディの鎖が軋む。
ナイトは、全力で動こうとしているのだ。
それをレディも、今、鎖と分銅を使って抑え込んでいた。
近接戦闘タイプとしても重戦車並みのパワーを持つナイトを、力で押さえつけているレディは、確かに中距離ファイターとしては破格の膂力ではあった。
だが、3対2である以上、ナイトを抑えて、自らもまた動けないのであれば、戦いの趨勢は決定的だった。
微笑みを浮かべ、カブトは小さな炎を、ピーターパンの周りを飛ぶティンカーベルのように、ふわふわと舞わせ、部屋中に広げた。
「ハハ、馬鹿だな相変わらず恭平は…」
レディは、掠れた声で笑った。
ぬ、とレディを睨んだカブトは、その瞬間、壁まで吹き飛んでいた。
「待たせたな、レディ」
ミオが、涼やかに笑っていた。




