三つの壁
偽壁づくりは、強化服を着ながら、鋼鉄の銃を構えて井口を見下ろしていた。
擬態、だと思っていた。
まさか壁から離れて歩き回れるものだとは思いもよらなかった。
だが現に今、あの井口とさほど身長の変わらない白人は、灰色と金髪の間のような、日本人にはあまり想像できないくすんだ髪色の頭をヘットギアに包み込んで、井岡を無情に見下ろしていた。
「防弾チョッキか…」
流暢な日本語で話す。
あのマッドドクターと言い、この男と言い、なぜ日本語がここまでうまいのだろう…。
「日本の諜報機関はお粗末だと聞いていたが、結構、最新式の物を使っている様子だな。
だが、まぁ、頭を吹き飛ばせば良いだけの話だ」
偽壁つくりは、一歩、ナイキのスニーカーを履いた足を踏み出す。
影繰りは、ほぼ革靴を履かない。
足音がしてしまうからだ。
革靴に見えても、足裏はゴムのソールになっていた。
偽壁つくりは、髪色とよく似た、グレーのナイキを履いていた。
なぜ銃を構えるのか?
と、井口は考えていた。
あのコンクリートを砕くパワーがあれば、俺を殴ればよかったのに…。
そうすれば、俺は即死だったろう。
使い慣れた銃の方が確実、と思ったのか?
しかし、あれほどのパワーを持つ強化服を着て、引き金を操るような繊細な動きが可能なのか?
井口の考えでは、それはロボットアームに裁縫をさせるような無茶なアクロバットのように思う。
銃と言うのは、意外と高いのだ。
ああゆう有名ブランドの銃ならば何十万もするはずだ。
それを強化服で操るのか?
疑問は、疑惑に移行しつつあった。
だが、疑惑を追及するためには、取り急ぎ、頭を吹き飛ばされない対策を講じる必要があった。
「影を纏うのかね?
だが、背中の傷は、骨折ぐらいはしているのではないかね?
至近距離からこの銃弾を受けたのだからね。
ところで…」
男は、もう一歩、井口に近づいた。
「影や仲間が、自分の元に戻っている、と考えているのなら、望みは捨てる事だ。
君のぶつかったのと同じ壁は、左右の道にも設置されているからだ。
この壁は、本物と同じ強度を持つ。
つまり、決して君の影にも、仲間にも壊すことは出来ない。
諦めるのだな…」
複数の壁を偽壁つくりは、作れるらしい…。
それではパイプと段ボールを同時に作れなかった理由は、一択という事になる。
射程距離…。
射程内ならば、最低3つの構造物を同時に維持できるのだ。
井口は、影を纏った。
近接戦闘用の影ではないので、さすがに銃弾が無意味になる、という程の強さはないが、軍事用の鉄兜を被っている程度には守られるはずだ。
即死はしないだろう。
「あくまで抵抗する、ということかな?
ガッツは認めるが、無意味ではないかね?
3つの壁に封じられた時点で、君はもう反撃できる影も、銃すらないのではないのか?」
言いながら、偽壁つくりは銃口を井口に向かたまま歩き、強化プラスチック製の銃を拾い上げた。
「諦めて影を解いたらどうだ?」
井口は、白人を見上げながら、
「質問してもいいか?」
偽壁つくりは肩を竦めた。
それをOKと解釈し、井口は言った。
「あんた、壁は作っても、パイプの中まで判っちゃいない、って気づいてるか?」
ぬ、と叫び、偽壁つくりは周囲の壁を見渡した。
設備通路の上部には、直径20センチ程の鉄管が走っていた。
偽壁は、外見上、そのパイプと繋がるように見えていたが、むろん本当に繋がっている訳ではなかった。
そして、井口のトンビは、井口の意思で大きくも小さくもすることができた。
白人の周囲の鉄管は、排水用パイプであり、雨も降っていない今現在は、ただの空の管だった。
その管に穴が開き、井口のトンビが、穴から鋭い視線を偽壁づくりに向けていた。




