111正面
どの程度の力の影繰りなんだろう?
井口は無言で、出現した壁を睨みながら考えていた。
壁は、こうして間地かで見ても、何の違和感もない。
煤けた壁面、配線コードは横の通路から繋がっているように見えるし、よく分からない壁面パネルが幾つもついていて、さらに壁上部に小さなLED灯まで設置されていて、その煤けた光り具合まで、まるで周囲と同じだ。
壁の出来栄えに感嘆しながらも、井口の3羽のトンビが新しい立体地図を作り上げている。
どうやら、俺の前だけに壁が生まれたらしい。
敵は、井口と高屋の力を天秤にかけたのではないか。
そして、まず、最初に潰すべきは井口の能力、と見定めて、井口の前に壁を作ったのだ。
確かに高屋一人では、この本物と区別のつかない壁の作り手を相手に、成す術がないだろう。
井口だから、敵が移動したことも察知できたのだ。
移動…。
そうだ!
井口は気付いた。
もし、無限に構造物を作れる能力者だったら、井口でも判らなかったかもしれない。
だが、敵は移動をした。
パイプから、段ボールへ。
およそ廊下を歩いたとしたら数十メートルの移動だった。
パイプを消さずに段ボールが作れれば、井口でも判らなかった。
だから、そこは力の限界なはずだ。
仕方なく、パイプを消したのだ。
高屋が、標的になることを警戒して移動し続けたのが功を奏し、この偽壁つくりは、移動せざるを得なくなったのだ。
段ボールが消えているのをトンビが確認した。
移動だ。
今度は、およそ百メートル。
前の移動が、擬態を維持しながらの、ゆっくりした移動だったとすれば、今回はおそらく、能力を解いて走ったのではないか。
前回の三倍以上を、偽壁作りは動いたことになる。
その間、井口たちは何をしていたか?
高屋と話し、高屋はこのフロアーのどこかに必ず敵がいる、と言い、井口は再度トンビを飛ばした。
そしてパイプが消え、段ボールが出現した、と話し、高屋が出撃した段になって、おそらくは壁が出現したのだ。
話を聞いていたのか?
もしくは高屋が戦闘状態になったのを見て、慌てたのか、とにかく偽壁作りはこちらの行動に合わせて動いてきた。
だが、なんで…、という疑問も残る。
偽壁つくりには、あの強化服があったはずだ。
あれを使えば、高屋と井口ぐらいは、まとめて葬り去る事が可能だったのではないのか?
強化服を使うまでも無い、と考えているのか、もしくは使いたくない理由があるのか。
まぁ、確かに…。
井口は腰のホルスターから小型の拳銃を取り出していた。
俺相手なら、強化服を使うまでも無いのかもしれない…。
今、井口のトンビたちは、周囲を探りに行っていて、井口は裸同然だった。
井口は、強化プラスチック製の小型銃を両手で握った。
周囲、どこから襲ってくるかも判らない。
井口は、じりっ、と壁から離れた。
ノコギリ男だった時には、単純明快な動きをしていた偽壁つくりだが、こうなると、どう襲うのか予想がつかない。
パイプや、段ボールであれば、おそらく擬態をするカマキリのように、相手が油断をした隙に背後から襲えばいい。
例のノコギリでもいいだろうし、ナイフ一本あれば事足りる、とも考えられた。
が、今は廊下を堰き止める壁に変身していた。
背中からは襲えないはずだ…。
影に攻撃力が無いとするならば…。
銃か、もしくは、あの強化服だろうか…。
どのみち、高屋も状況の変化に気が付くだろう。
敵は、今しも攻撃を始めるはずだった。




