粉砕
誠は腹部に、強烈な一撃をもらった。
もし、無防備にパンチを受けたりしたら、それで内臓破裂ぐらいにはなりそうな重機並みのパワーだった。
誠は、瞬間、影の手を出して蒼井聡のパンチを受け止めていた。
それでも、そのまま数メートル吹き飛んで、プラスチックの壁に激突した。
「誠!」
美鳥が、自ら蝶を纏っていく。
美鳥の近接戦闘用強化装甲、蝶の鎧だ。
「アハハ、そんなもので私に対抗する気かい?
基地のコンクリートを殴って破壊できる私のパワーを見なかったのかい美鳥」
蒼井は、嘲るように笑っていた。
確かに、蝶の鎧程度でどうにかなる相手ではなかった。
マッドドクターによると、一生分の影の力を、一日で使い切る恐ろしい強化マシンなのだ。
事実、彼らは厚さが1メートルはある基地のコンクリート壁にパンチで穴をあけ、細い鉄筋ではなく、分厚いH鋼の骨組みを引き千切って、涼しい顔をしていた。
マズい…。
誠は、全身を強く打って、体が痺れていた。
透過、しようにも、蒼井は自分の皮膚をスライム状の粘液に変化させ、コンクリートに埋めても抜け出してしまう。
落としてもダメージがない。
くそ…。
誠は呻いた。
数時間前までは、僕は、自分が無敵だと思っていたのに…。
だが、想定外の敵の出現に、誠の無敵感はすぐに霧散した。
せめて基地のもっと地下まで落とせれば、或いは殺せるかもしれなかったが、さすがに自分がどこまで落とせるのか限界を試したことは無かった。
そんな必要を感じてはいなかったのだ。
だから、もし、スーパーコンピューター室に敵を落としてしまった場合のリスクを考えると、蒼井聡の言うように、この場所では誠は弱かった。
全く…。
こんなことにも気づかず、もう一人前、みたいに自分を思っていたなんて。
僕は全然、坊や、だし、1か月訓練を受けただけの素人だ。
誠は唇を自分で噛んだ。
飛び上がるほど痛い。
痛みで、後悔の渦から、抜け出そうとした。
今、自分を罵っていても、ただ美鳥と共に蒼井聡にミンチにされるだけだ。
今は、なにか美鳥の役に立つ方法を考えなければならないのだ。
僕にできるのは、透過、か影の手、を使うこと。
2人でこの部屋から逃げるか…。
いや、それではすぐに蒼井に追ってこられる。
なにか透過の使い方はないのか…。
誠は、結構遊びでも透過を使ったりしていた。
風呂に入るときなど、すぼっ、と衣服を全て透過して脱いだりもしていた。
あれは結構楽チンなので、学生服も、それで脱いだりしている。
まだ、さすがに人の服を脱がしたことはないが、衝動にかられたことは幾度かあった。
格好つけた運動部の奴を、無様な姿にさせる、とか、透視に失敗した分、これさえ使えば凄いものが見られる、とは夢想はしたが、たぶん、すぐ内調に知られてしまうだろう。
誠は内調から給料ももらっていたが、首輪を嵌められた犬でもあった。
脱がす…、か…。
あ、と誠は気が付いた。
そうか、蒼井聡が強いのは、強化服を着ているからだ。
そして、それは僕には通じない強さなんだった!
誠は、まだ自分の透過の真の使い方に気が付いていなかった。
舌打ちしながら、強烈なパワーで壁に激突しプラスチックが蜘蛛の巣のようにひび割れてしまった壁に刺さったまま、蒼井聡の強化服を、透過した。
ガシャン、と蒼井の服が、腰のバッテリーやヘッドギアごと、床に落ちた。
は、と言う風に蒼井は、目をパチクリさせて動きを止めた。
美鳥は、一瞬で蒼井の懐に飛び込み、襟投げで蒼井を頭から床に落とした。
内調の武術コーチは、皆影繰りであり、実戦の武道しか教えない。
ゆえに、投げ技は皆、プロレスのように頭から地面に刺すように落とす。
関節技は折るように指導するし、相手を殺せるポイントに絞って、蹴りやパンチを打つよう指導する。
蒼井の眼鏡は、今度は粉々に砕け散った。




