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誠は、美鳥と共に蒼井聡を地下7階の、自分も入ったことのない何かの研究室に透過させた。
見たところ、何らかの実験を行うための施設のようで、鍵が無ければ開かない厳重に防護された部屋のようだ。
ベージュ色のプラスチック素材らしい壁と天井、床はグレーの防水シート張りで滑り止めの加工がされている様子で、細かい縦筋が一面に入っている。
天井から何から何まで丸洗いできる、と言う風に見えた。
壁際には緑色のホースと蛇口も設置されていた。
今のところ、この実験室には何も置かれてはいなかった。
広さはざっとテニスコート程だろう。
蒼井聡は、頭から落ちるように実験室に落下した。
盛大な音が密閉された室内に響き渡ったが、蒼井聡は何事も無かったかのように起き上がった。
「おいおい君たち、もう諦めたらどうなんだい。
マッドドクターには敵わない、それは君たちも判っていると思うがね」
蒼井は、ヘッドギアの下の、プラスチックフレームの眼鏡を光らせて、薄笑いを浮かべながら語った。
眼鏡は見た目より頑丈と見えて、これだけ落下しても壊れるどころか顔からズレさえしない。
「敵わないとは思いません。
現に、もうドクターは僕の感知能力をジャミング出来ません」
誠は決然と言った。
「なぜ、そんなことが判るんだい?
今、きれいさっぱり騙されたところだろう?」
誠も笑った。
「あの人は、確かに天才なんでしょうが、同時に、とてもお喋りです。
自分でジャミングの種明かしを全て話してくれました。
今、ドクターの分厚いパソコンはコンクリートの中に埋めてあります。
だから、もはやジャミングは出来ないわけです」
「あの瞬間に落としたのね!」
美鳥も笑った。
「確かに、あれが無ければ、あのお爺ちゃんもただの催眠術師に過ぎないわね」
ははは、と蒼井は笑い、
ドクターは私の頭も見ているんだよ。
つまり、今の話も筒抜けだ。
パソコンなど、簡単に取り戻せる」
誠はニンマリと笑った。
「どうでしょうね。
自分で、基地の配線を使っている、と話していましたからね。
つまり、あのパソコンのジャミングも、この基地のネットワークシステムを利用して行っているわけです。
ここは防衛施設ですから、もちろんローカルネットワークです。
調べればすぐにパソコンを特定できるし、中身も検閲できる。
蒼井さんは知らなかったんですか?」
蒼井聡は、微かに顔色を変えて舌打ちし、
「まあいい。
君たち二人は、ここですぐにミンチになってしまうんだからね」
言って、両手からドロリ、とした影を発生させた。
まるで黒いスライムのようなそれは、トロトロと伸び、短い鞭のように蒼井の両手から伸びていった。
「気を付けて誠。
あの鞭、当たれば強烈な打撃ダメージを与えるだけでなく、私の蝶のように貼り付いて固まるわ」
誠は頷いた。
それに、さっきは弾のように手から飛ばしてもいた。
美鳥の蝶のように一面を埋め尽くすものではないが、スピードは遥かに上のようだった。
「ハハハ、美鳥、君は何年も私の戦いを見ていないだろう。
それだけだ、と思うのかい?」
影の種類はたいていは1つ、誠の2種類というのもかなりの変わり種だ。
だが、同じ昆虫を発生させるにしろ、美鳥が蝶をミサイルにしてみたり、カミキリムシに変形させたり、しているようにバリエーションを増やすのは誰でもしていることだ。
数時間前、一度誠達は戦い、蒼井を倒しかけているが、あの時はマッドドクターが参戦してきたために誠達はすぐ撤退してしまっていた。
あの場では勝っているように見えていたが、あそこから青井がどんな逆転の技を繰り出していたか、見れなかったのが惜しい、と誠は思った。
確かレディさんが14の時、カブトは海外逃亡したのだから約3年、美鳥さんも蒼井を見ていないことになる。
カブトも時限爆弾を開発していたし、相棒の青井も相応に強くなっているはずだ。
2人の力関係が今も変わらないとするなら、蒼井聡はカブト以上に強い、という事になる…。
どん、と床をけるような鈍い音が響き、蒼井は一瞬で誠の前まで走った。
まるで瞬間移動だ。
そう…。
蒼井たちは、本来の影繰りの力に加えて、今はマッドドクターの身体強化まで受けていた。




